「運営」でも良かった時代から「経営」が必要な時代に ③

「従属変数」の売上から「独立変数」の売上への転換


製造業などでは、特定のメーカーに売り上げのほとんどを依存している部品製造会社が少なくない。たいていはメーカーが示したスペックで、決められた納期までに指示された数量を製造して納品する、という作業パターンである。ところが、このような企業でも自社は高い製造ノウハウを持っているから、メーカーから仕事を切られることはない、と信じ込んでいる経営者もいる。

本当にノウハウをもっているのだろうか。

製造している部品は、メーカーのスペック通りに作っているだけである。そして納期までに受注した数量を製造しているだけだ。それをノウハウとはいわない。このような企業がもっているのは、メーカーから指示されたスペック通りに製造するための設備と、合格品を製造する作業能力をもった従業員がいて、受注した数量を納期までに製造することができるキャパシティがある、というだけである。そして、ある部分的な製造作業を請け負っているだけなのである。

それに対して、あるパーツについては独自で開発した自社製品をもっている部品メーカーがある。同じアッセンブリメーカーに部品を納めているとしても、自社製品としてのパーツなら、作業受託ではなく製品販売である。このような部品メーカーは、独自にパーツを設計・開発するノウハウがあり、メーカーはその製品を購入するという関係になる。するとこの部品メーカーは、完成品ではライバル関係にある各アッセンブリメーカーに、その部品を販売することができる。販売先が多くなればなるほど、製造原価が逓減し、購入するアッセンブリメーカー側もコストダウンにつながる。

ここで考えなければならないのは、特定の取引先だけに依存していると、自社の売り上げがその取引先の業績次第でプラスにもなりマイナスにもなるということだ。特定の取引先に過度に依存していると、売上も取引先の業績によって左右される。つまり売上収入が従属変数になってしまうのである。

たまたま優良な取引先に依存していたから、取引先の発展に伴って自社の企業規模も拡大し、これまでは一般に優良企業と評価されていた企業も少なくない。しかし、リーマン・ショックは、そのような幻想も払拭してしまった。

国内の経済が拡大していた時代なら「寄らば大樹の蔭」でも良かったかもしれない。しかし、経済はグローバル化し、国際競争の中で大企業といえども明日はどうなるか分からないような時代である。大きな台風が来た場合、大樹の下ほど折れて落ちてくる枝が太くて大きい。大樹の下にいるほどダメージが大きく、時には致命傷になってしまう。

そこで、売上高も自社の企業努力いかんで増やしていけるような経営にすることが経営者としての重要課題になっているのだ。つまり、収入構造を独立変数にするための企業努力である。

そのためにはどうすべきか。市場が拡大しているなら、従来のように優良な特定の取引先に依存しているだけでも、自然と業績を伸ばすことができた。経営者は会社を「運営」しているだけでも良かったのである。しかし、市場が縮小する中では、垂直統合的な上下の取引関係から水平分業的な対等な取引関係に移行し、売り上げも特定の取引先の業績に左右されるような従属変数から、自社の経営努力次第で売り上げを伸ばせるような独立変数にしていくことが必要になる。

そのためには経営戦略が必要であり、経営者は本来の意味での「経営」ができるようにならなければいけない。

このように、運営しているだけでも会社が何とかなっていた時代から、経営ができなければ淘汰されてしまう時代に、すでになっているのである。そのためには何が必要か。プライオリティを的確に判断することができる経営能力である。