多数の下請け会社に仕事を出しているある企業から、下請けの協力会社で組織する協力会で話をしてくれというオファーがあった。協力会社の各社が、収益性の高い経営構造になるためにはどうしたら良いか、といった内容の話をしてもらいたいという依頼だった。
そこで、収益性の高い自立した経営を目指すには貴社(講演を依頼してきた会社)への売り上げ依存度を下げ、たとえ貴社からの仕事の発注であっても採算が悪い仕事は断れるような経営にしなさい、という話になるがそれでも良いのかと聞いた。
すると、そのような内容を望んでいた。ぜひ話してもらいたいという。
その企業の担当者によれば、自社にだけ売り上げを依存されているのでは困る。自社以外にも取引先をもち、自立した経営ができるようになってもらいたい。そうならなければ、自社との取引価格(下請け単価)次第で収益性が左右されてしまう。そのような経営構造では、仕事を出す側のコスト・ダウンにも限界がでてくる。たとえ自社とは競合するライバル関係の会社であったとしても、取引できるような力をもった企業になってもらうことが、自社のコスト・ダウンにもつながる。また、そうなった時に初めて本当のビジネス・パートナーの関係が実現するというのだ。
海外の話になるが分かりやすい事例を紹介しよう。 EU(欧州連合)は1993年11月に当時12カ国で発足した。このように経営環境が大きく変化する中で、勝ち残ってきた小規模な陸運事業者のケースである。
それまでは1カ国内で事業を行っていた中小の陸運事業者も、市場統合でEU全体を対象にした事業展開を余儀なくされた(正確にはイギリスは陸続きでないので陸運業の場合は事情が多少異なるが)。この経営環境の激変の中で、勝ち残ってきた中小の陸運事業者にはいくつかのタイプがある。その一つが「下請けに徹する」という経営戦略だ。
自国以外では直接取引する荷主を持たない。だがEU全域の要衝に元請け事業者を確保する。そして労働時間その他の法的規制をクリアしつつ、最大の収益を得るように、経営資源であるトラックをラウンドで効率的にオペレーションするノウハウをもった中小の陸運事業者である。
このような仕組みを構築すれば、営業費用を最小にできる。しかも、AからBに荷物を運び、BからCに、CからDに、DからEに、そしてEから自社のAまで荷物を積んで戻ってくる。その間、空車走行を最小にするようにトラックを効率的に稼働させる。もちろん自社を出発してから帰ってくるまでの間、乗務員の労働時間や休憩、休息時間など法的な規制をクリアするような独自のオペレーション・ノウハウである。
このような陸運事業者は、直接取引をする荷主企業がなく、総て下請けの仕事であっても、高い収益性を実現できる。いわば輸送業務だけに専念・特化した輸送キャリアといえる。輸送品質も必要条件ではあるが、このような「下請け」なら仕事を委託する元請け事業者としても、自社のトラックで運ぶよりローコストを実現できる。
こうなると元請け、下請けも垂直統合の上下関係ではなくなり、いわば水平分業の対等関係になる。元請けも下請けも本当のビジネス・パートナーとしての契約関係を実現することになるのだ。