経営における足し算と引き算①

創業社長と2代目以降の社長の違い


取材で様ざまな経営者に会う。会って何をするのかと言えば、話を聞き出すのである。話を聞くのではなく、聞き出すのが取材という仕事である。話を聞くだけなら簡単だ。自分が話したいことを喜んで話してくれる経営者は少なくない。しかし、聞き出すことは難しいのである。本当は話したくない内容についても、いかに正確に、いかに多くの事を聞き出すか。これが取材者の力であり仕事である。

一口に経営者と言ってもいろいろである。もちろん、企業規模によっても経営者の特徴が異なる。また、オーナー社長か資本と経営が分離している会社の社長かでも、それぞれ経営に対する考え方や姿勢などが違う。

しかし、ここでは企業規模にかかわりなく、オーナー経営者を前提に話を進めよう。また、オーナー社長といっても株式が非公開の会社だけではない。株式を公開しているような企業でも実質的には創業一族によるオーナー経営と同様の企業が少なくないのが実態だ。株式公開後も創業一族がずっと社長を継承しているような企業である。このような会社の経営者もオーナー経営者という概念でとらえることができる。

このような前提に立つと、社長を分類するのは創業社長か、2代目社長か、ということになる。3代目や4代目社長なども、便宜上、ここでは2代目社長と表現することにしたい。要するに2代目以降は創業者である先代社長から経営を引き継いだという意味に解釈してほしい。と言うのは、創業社長と、2代目以降の社長では明らかな特徴の違いがあるが、2代目と3代目ではそれほど大きな違いが感じられないからである。もちろん、ここでは共通する差異を指しているのであり、実際には100人の社長がいれば100の違いがあることは言うまでもない。

やはり、創業社長は個性が強く、基本的には攻めの姿勢を共通して持っている。そして、経営の基本は「足し算」というふうにとらえることができる。

創業者は自ら会社を立ち上げてスタートしたのであるから、企業が発展するということは絶えず新しい何かがプラスされているということになる。常に足し算的な思考で経営を行っていると理解して良い。それが企業を成長させることになる。

もちろん、足し算だけではなく時には一時的に、あるいは特定分野から後退(引き算)する場面もあるが、創業社長は基本的には足し算の経営なのである。いわば攻めの経営と言い換えてもよい。

足し算を続けるとだんだん数字が大きくなる。つまり売上金額が大きくなり、会社の規模が大きくなる。それに伴って、従業員数が増加し、施設や設備、営業所網なども拡大していく。

だから、創業経営者の実績は実に分かりやすいのである。経営者自身も、売上高をはじめとして企業規模の拡大が、イコール自分自身のサクセスストーリーに直結する。創業者社長の中でもとりわけ大きな実績を残したような経営者は、「立志伝中の人」とも言われるが、サクセスストーリーは案外シンプルなのである。その足跡をたどると、基本は足し算になるからである。

このように創業社長の経営をみるとき、足し算を基本に軌跡を分析すると分かりやすい。もちろん、経営が常に順風満帆とは限らないが、苦境に直面した時でも、どのように分析しどのような手を打って難局を打開したかを、足し算として見ると成功の要因が見えてくるのである。

逆にみると、このような創業経営者の多くに共通する弱点は、引き算が苦手で、できるだけ引き算をしたがらないということである。ゼロからスタートして常に足し算経営で規模を拡大してきた経営者は、引き算が嫌いで、引き算をしたがらない。規模こそがステータスであり、成功した自分を確認するためのメルクマールが規模といったとらえ方をしがちだ。このような潜在的な意識が強く支配している。中には、企業規模の拡大がアイデンティティのようになってしまっている創業経営者もいる。だから苦境に陥っても不採算部門からもできるだけ撤退することなく、何とか持ち堪えようとする。もう少し耐え忍べば、いずれは景気が回復し、拡大基調に戻ることができると信じて疑わないような創業経営者も中にはいるのである。拡大基調一辺倒でも良かった昔の夢が、もう少し我慢すれば再び訪れると信じ、願望しているのである。

しかし、これが欠点であり、経営的には致命傷になるケースもある。創業以来、短期間に業績を伸ばして注目され、一時はその業界の寵児ともてはやされながら、経営に行き詰ってしまうような経営者は、足し算は得意だが、引き算が極端に苦手だった経営者である。

いずれにしても創業経営者はストラクチャーすなわち構築であり、単純化すると足し算ということになる。