この間、ヤマト運輸の27年ぶりの料金値上げや時間帯指定の一部見直しなどが大きなニュースになっている。その影響もあって、運賃値上げやドライバーの労働環境改善などに対して、トラック運送業界全体への追い風が吹いているといっても過言ではない。かつてのオイルショックのような大きな経済変動を除くと、おそらくトラック運送業界は現在のような状況をこれまで経験したことがないのではないかと思われる。
そのような中で日本経済新聞社は4月下旬に、運賃値上げに関するアンケート調査を実施。その結果を日本経済新聞(5月19日・電子版)で公表した。同紙によると調査票の送付は4月下旬で、調査対象は物流企業(回答=27社)と個人向け通販企業(回答=222社)である。
物流企業に聞いた大口顧客向け運賃では、1月以降に値上げを「実施した」12%、「実施予定」20%、「検討中」36%で、これらを合わせると値上げを目指す企業は68%。平均値上げ率は「約1割」55%、「1割未満」36%である。
また、基本運賃の値上げについても、1月以降に「実施した」8%、「実施予定」15%、「検討中」27%で、合わせると50%の物流企業が基本運賃を値上げする。基本運賃の平均値上げ率は回答企業全社が約1割までだった。
運賃値上げによって得た資金の使い道は、複数回答で「従業員の待遇改善」63%、「人材採用の拡大」59%、「コスト増の補填」41%である。やはり従業員の定着向上(待遇改善)と新規採用(雇用拡大)が最優先課題になっているようだ。コスト増の補填は、おそらく傭車などの外注費の増加に対する補てんという意味だろうと思われる。いずれにしても、人員の確保に関連する資金の投入だ。
一方、荷主の側はどうか。事業者との運賃見直し交渉について、「交渉を終了した」5%、「交渉中」21%、「今後、交渉する予定」32%で、これらを合わせると58%の荷主が事業者の運賃値上げ交渉に臨むという結果だ。
調査時点でまだ交渉を終えていない荷主が容認する値上げ率については、「1割未満」「約1割」がそれぞれ23%、「約2割」15%である。この結果からは、荷主が応じられる値上げの率は1割程度が一定の目安になりそうだ。
だが一方では、運賃値上げを「拒否する」という荷主の回答も38%あった。運賃値上げ交渉が簡単ではない現実を表している。
日経の調査結果の概要は以上の通りだが、調査対象が物流企業、通販企業の双方とも大手企業である。業界の実態としては、中小事業者が大手荷主企業に交渉するケースが多い。
この間、運賃値上げ交渉した中小事業者もいるが、圧倒的多数の中小事業者は値上げ交渉をしていないのが実態ではないか。運賃を値上げした中小事業者も、売上構成比の高い荷主では値上げがなかなか難しいのが現実のようだ。取引額の少ない荷主には「ヤマト旋風」の「追い風」を背景に強気で交渉できるが、取引額の大きな荷主に対しては簡単ではない。
労働時間短縮や賃上げなど労働力確保の必要性に対しては荷主も一定の理解を示すが、現実に値上げとなると抵抗が強い。いずれにしても、ねばり強い交渉が必要だ。