国土交通省では「貨物自動車運送事業輸送安全規則」の一部を改正する。
トラック運送事業者は荷主との取引関係において立場が弱い。そのため荷主の一方的な都合によって、長時間の荷待ちが半ば常態化している実態もある。この荷待ち時間がドライバーの長時間労働の要因の1つになっている。荷待ち時間の削減は労働条件を改善するための大きな課題である。
そこで、荷待ち時間の長い荷主への勧告などの発動に係る確認の一助とするため、国交省は乗務記録の内容の一部を改正する。荷待ち時間の削減を図る目的での一部改正だ。
改正の概要は、到着時刻から荷物の積込や荷卸し作業開始までの待機時間を、乗務記録に記載することをトラック運送事業者に義務づける、というもの。集荷(納品)地点への到着時刻、荷積み(荷卸し)の開始時刻などを乗務記録に記載することで、荷主都合による待ち時間の実態を把握し、ドライバーの労働時間短縮などの改善を図るのが目的だ。
待機時間の有料化や荷主勧告などの基礎データにもなる。
改正するのは、乗務等の記録(第8条関係)と適正な取引の確保(第9条の4関係)。
第8条では休憩または睡眠をした場合の地点・日時などを記録するように定めている。さらに荷主都合による荷待ち時間の実態を把握し、過労運転の防止につなげる観点から、以下の内容も乗務記録の対象として追加する。
* 集荷・納品をする地点への到着日時および集荷・納品先からの出発日時。 * 集荷・納品地点における荷積みあるいは荷卸しの開始および終了日時。
これらを乗務記録の対象として新たに追加する。
ただし、対象車両は車両総重量7.5t以上または最大積載量が4.5t以上である。これらの車両を対象にしたのは、一般的に拠点間輸送の大型車両の待機時間が長いからだ。
第9条の4では、輸送の安全を阻害する行為を防止するため、荷主と密接に連絡し、協力して適正な取引の確保に努めなければならない、と定めている。
荷待ち時間の解消には荷主の理解と協力が不可欠だ。そこで、荷主都合による荷待ち時間に起因する過労運転や過積載などの運行防止についても、適正な取引の確保の努力義務の目的として新たに追加することになった。
これら規則の一部改正がドライバーの拘束時間の短縮などにつながれば喜ばしい。とりわけ長距離幹線輸送のドライバーの労働時間短縮は業界の大きな課題だからである。
だが、現実はそんなに単純ではない。到着時間と積込み(荷卸し)開始時間の記録化で注意しなければならないのは、見かけ上の待機時間の短縮をいかに防ぐかである。
典型的な見かけ上の待機時間ゼロは「ジャスト・イン・タイム(JIT)納品」だ。JIT納品は着荷主への到着が指定時間通りなので、見かけ上は納品先での荷卸しまでの待機時間がない。だが、指定時間に遅れるとペナルティが課されるため、時間的に余裕をもって早めに納品先の近くまで行く。しかし、早く着き過ぎてもいけないので、着荷主の近くのコンビニその他で車両を止め、ドライバーが時間を調整しているのが実態だ。
このようにJIT納品は、実際にはドライバーに負担を強いて見かけ上の待機時間ゼロを実現しているに過ぎない。ドライバーへのしわ寄せで着荷主の自己最適を実現している。
規則の一部改正によって、到着時間から積込み(荷卸し)開始までの時間を記録するようになると、そのデータが待機時間有料化の根拠になったり、酷い場合には荷主勧告もあり得る。そうなると着荷主のJIT納品と同様に、発荷主においてもドライバーへの負担増と引き換えに、表面的な「待機時間短縮」を実現しようとするケースが出てくる可能性がある。
たとえば集荷(納品)に来た車両を、これまでは工場や物流拠点の敷地内で待機させていたが、今度は敷地外で待機させることで記録上の到着時刻を遅らせ、積込み(荷卸し)開始時刻までの見かけ上の「時間短縮」を図って責任を逃れる。このような姑息な発荷主(着荷主)や元請事業者が出てくる可能性がある。
この程度の操作は簡単だ。発着荷主や元請事業者の部分最適のための見かけ上の待機時間短縮は、ドライバーにしわ寄せすればすぐにできるというところに問題がある。
以上のように、発着荷主への到着時間、積込み(荷卸し)開始時間の乗務記録への記載義務づけは、ドライバーの労働条件の改善という目的とは逆の結果を生む危険性も内包されている。それをどのように防ぐかも併せて考えなければ実効性がない。