最近は各分野でAI(人工知能)の可能性に関心が高まっている。AIは学習能力があり、ロボットの場合なら成功や失敗のデータを蓄積してそのデータを基に自ら進化していく、ということのようだ。
では、物流分野ではどうか。
まずAIをどのように定義づけるかによって違ってくるが「人工知能」と解釈すると、日本の物流分野の現状はAIのレベルには程遠い。各業務領域ではIT化が進んでいるが、現状ではそれらが通信技術の発達によってつながりつつある、といった段階のように思える。
あえていえばICTへの移行期であろう。ICTとITとの違いも難しいが、これまでのITとほぼ同義で最近はICTと表現するらしい。ITはInformation Technologyだが、ICTはInformation and Communication Technologyなので、簡単にいえばIT間の連携がICTではないだろうか。
そこで物流の現状とAIの可能性を簡単に整理してみた。
物流現場の業務領域は倉庫・物流センター業務と、輸送・配送業務に大別できる。
まず、倉庫・物流センターでは、入庫から棚入れなどの作業がある。自動倉庫の歴史は古いがCP制御をするようになったのは比較的新しいといわれる。店頭におけるPOS情報が小売店の本部だけでなく、倉庫にまで連動するようになったのも10年ぐらい前からという。だが、店頭在庫の需要予測をして自動発注するまでには程遠いのが現状のようだ。小売業、卸業、製造業の各段階ではIT化が進んでいるが、それらがつながって、ネットワーク化してきたという段階(ICT)といわれる。
システム会社などが販売している在庫管理や自動発注システムを導入している倉庫会社や運送会社もあるが、それらは確定プログラムをルーティンとしてこなす作業の効率化である。庫内での商品移動や棚入れなども、確定プログラムできるようなパターン化された作業ならロボット化も可能だが、現実には荷物の大小や形状などが多様で、無人フォークリフトでも様々なアタッチメントが必要になる。
ピッキングも大きさが同じケース単位ならロボット化も可能だろうが、ピース単位のピッキングではプログラム化が難しいのが現状のようだ。将来は別だが、現状ではピッキングのロボット化は人間のピッキング補助といったところであろう。
製造業の工場ではロボット化が進みつつあるが、物流分野でも工場の延長と応用でメーカー物流の方がAIの導入が可能なのではないかと思われる。取り扱う荷物のロットもまとまっていて、作業もパターン化しやすいからである。それに対してサプライチェーンの川下になるほどAI化は難しい。
輸送・配送分野は、配車や運行管理、幹線輸送、エリア配送に大別できる。配車や運行管理では、現在でも一定の要件を満たせばIT点呼が認められている。だが、これはIT機器を使うことで、運行管理者とドライバーが非対面の点呼でも良いというに過ぎない。
配車システムでは、荷物と車両の組み合わせと運行計画が自動的にできるが、これも確定プログラムの域を出ない。また、Webによる車両と荷物のマッチングも、求車・求荷の情報を流すだけで、自動的にマッチングできるわけではない。ただ最近は、1車両単位の荷物と車両だけでなく、荷台の空きスペース単位のマッチングにまでなりつつあり、いわばトラック運送版のシェアリング・エコノミーという見方もできる。
宅配ではヤマト運輸が「ロボネコ」の実験を神奈川県藤沢市の国家戦略特区で始めた。将来の自動運転が前提になるが、自動運転の車両には宅配ボックスが設置されていて10分刻みの指定時間で、指定された場所に届ける、というもの。荷受人が自分で宅配ボックスから荷物を取り出す。これが実現すれば従来の宅配とは違う、移動宅配ボックス・サービスになる。物流分野のAI導入だ。
一方、幹線輸送ではトラックの自動走行と隊列走行の実用化が実現すれば物流AIといえるだろう。隊列走行は、トラックプラトーニング(隊列走行自動運転)で、将来的には無人走行の先頭のトラックの後に、何台かの無人走行のトラックを電子的に連結し、適正間隔で連なって走る。
当面は先頭の車両にドライバーが乗る形で、2018年1月から実証実験を開始し、2020年度には新東名高速道路で実現。さらに2022年度には東京~大阪の高速道路での事業化を目指すとしている。自動運転による隊列走行となれば物流AIといっても良いだろうし、トラック運送業界の状況が一変する可能性もある。
また、欧米などではデリバリー・ロボットも実験されているようだが、日本での実用化はまだまだ先の話ではないだろうか。一方、ドローンを活用した宅配のラスト・ワン・マイルも検討されている。だが、法的な面を別にしても、実用化できるのは山間へき地や離島、あるいは医薬品など緊急を要するものなど一定の範囲に限られ、宅配手段としての一般化は難しいものと思われる。