自然災害時の経営者(管理者)の判断と責任


東日本大震災から7年が経ったが、7年前の災害発生から2、3カ月後に、筆者に次のような話が入ってきた。

A社もB社も企業規模は同じぐらいで、両社とも被災地に多数の配送車両がいた。しかし、A社は被災したドライバーがいなかったのに対して、B社は犠牲者が何人かでた。話によると、A社は地震発生後に「車両はどうなっても良いから安全なところに逃げろ」とドライバーに指示を出したが、B社は具体的な指示を出していなかった、というのだ。車両がどうなっても良いということは、当然、積荷を失うということを意味しているし、その責任は会社がとる、ということだ。

その話をしてくれた人は、それが企業レベルの差といっていた。

ところで、今年の寒波は例年になく厳しかった。

寒波襲来と各地での大雪に関連する報道の中でも、やはり北陸の幹線道路で多くの車両が動けなくなり、解消まで時間がかかったニュースは印象に強く残っている。仕事がらどこの会社のトラックだろうという目でテレビのニュースをみていた。

先日、北陸に近い所在地の事業者と電話で話す機会があった。少し時間が経過していたが、大雪の時の同社のトラックへの影響を聞いてみた。当然、多くの車両が立ち往生した道路を利用しているトラックが何台かある。だが、身動きが取れなくなった車両は1台もなかったという。

これには理由がある。通常に運行していたら何台かは立ち往生して身動きが取れなくなっていたはずだが、この事業者は「降雪の状況などから渋滞を予測し、荷主に連絡して判断を仰ぎ、途中から会社に引き返すように指示した」という。「このまま進ませたら到着までに完全に13時間を超えてしまうと判断したから」である。さらに同じ方面に行く予定の後発の車両は、「事前に荷主に連絡をして最初から出発させなかった」。

そのため立ち往生して動けなくなったトラックはゼロだったが、本来は運ぶべき荷物を運べなかったという影響は免れなかった。それでも、荷主からキャンセル料を支払ってもらった。もちろん、出発前にストップした車両と、途中から引き返させた車両ではキャンセル料の金額が違う。だが、出発させなかった車両についても、標準運送約款に記載してあるキャンセル料をもらっている。それは最低料金なので、途中まで走って引き返した車両は、それよりも多い金額のキャンセル料である。また、途中から持ち帰ったために賞味期限切れとなって廃棄処分した商品代金については荷主負担としている。

この場合の同社の判断基準は1日13時間を超える労働はさせない、というものだ。その基準で判断し、雪の影響などで最初から13時間を超える可能性が高い条件下では出発させないと荷主に連絡して了解を得ている。

この事業者は約20台規模で、運送業務しか行っていない。それでも単純な輸送はしていないので取引先が多く、利益率も高い事業者である。

しばしば「それについてはドライバーの現場での判断に任せている」、と自主性を重視しているかのようなことをいう経営者がいる。判断する内容にもよるが、時間通りに荷物を届けることを断念するというような判断までドライバーに任せるというのは、経営(管理)側の責任放棄といわざるを得ない。

その点、この事業者は判断基準をもち、それに基づく責任ある対応を経営(管理者)側がしている。荷主に対する責任、従業員に対する責任、自社の経営に対する責任、社会的な責任など、これら一さいの責任は経営者が負うという覚悟の上での判断である。

荷主がそれを評価しているから、キャンセル料についても応分の負担をしてくれるのである。