「働き方改革」or「働かせ方改革」


「働き方改革」はトラック運送業界にとって大きな課題である。労働時間短縮だけでも難問だが、賃金の引上げも不可欠だ。現状では、この時短と賃上げは二律背反である。

ところで一般には「働き方改革」でも、トラック運送業界の経営者にとっては「働かせ方改革」と認識すべきではないかと思う。

運輸労連では「従事する業務によって時間外労働の上限規制に差が」あるのは不公平だとし、「年間の時間外労働の『上限規制720時間以内』の適用」と「休日労働を含めた『2~6カ月平均80時間以内』『単月100時間未満』の適用」を求めている。

また、運輸労連の新春交歓会で、来賓としてあいさつした立憲民主党の枝野幸男代表は、ドライバーは他産業の労働者よりも危険が伴うのだから、時間外労働の上限規制を緩くするのではなく逆に厳しくすべき業種、という主旨の話をした。

それを聞いて、なるほど一理あると思った。もちろん、それだけ多くのドライバーを確保し、労働時間が短くても生活できる賃金を保証できるような原資の確保が前提になるが、正論だと思う。生産性の向上などによる原資の確保も含めて、他産業より労働時間の上限規制が短くなった時に、トラックドライバーが「誇りの持てる職業」になるのは事実だ。

一方、いうまでもなく「働き方改革」は経営者にとっては難問で、いろいろな場で話題に上ることが多い。「現在のような働き方改革の流れで関連法案が通ってしまうと、我われは経営が成り立たなくなってしまう。マスコミなどで業界外に向かって発言する機会があったら、そのような中小運送事業者の実態を訴えてほしい」と要請されることもある。

たしかに現状のままで時間外労働の上限規制が強化されたら、業務が遂行できなくなってしまうという現場の実態があることは事実だ。時間外労働の上限規制を他産業と同時に適用されたら、経営が成り立たなくなる事業者は少なくないだろう。

そこで他産業並みにするまでに一定の猶予期間をおくことが必要なのだが、これはこれで両刃の剣にもなりかねない。その猶予期間に、若いドライバーが他産業の会社に転職してしまう可能性もあるからだ。

そもそも現状でもドライバーが不足しているのは論理的には不思議である。国交省の資料によると、2011年度の営業用自動車の輸送量31億100万tに対して、2016年度は30億1900万tなので、5年間に8200万tも輸送量が減っている。さらに日通総研の試算では2017年度の営業用自動車の輸送量は30万9100万tの見通しだが、それでも11年度と比較すると1000万tのマイナスである。

この間に高齢者のリタイヤも進んでいる。また、宅配便は取扱個数が伸びている。だが、業界全体でみると輸送量が減少しているのに、他産業より有効求人倍率がずっと高いのはなぜか? これは、ドライバーが他産業の会社に転職している結果と推測される。さらに猶予期間に他産業へのシフトがより進む可能性がある。

いずれにしても「働き方改革」には生産性向上が伴わなければならない。労働時間短縮だけを切り離して考えることはできないのである。したがって取引先との関係見直しも含む経営全体の改革が必要になる。そのような意味で、経営者という立場からは「働き方改革」ではなく、「働かせ方改革」と認識しないといけないのである。