事業許可更新制を考える


長野県軽井沢町で起きたバス事故を受けて、国土交通省は再発防止策として貸切バスの事業許可に更新制を導入する方向で検討を進める。貸切バスで事業許可更新制の導入が現実的になってきた状況を踏まえ、トラック運送事業においても事業許可更新制について考えてみることが必要ではないだろうか。

実は、トラック運送事業でも事業許可更新制が検討課題に上ったことがある。「トラックビジョン」を検討する過程で、最低保有台数や運賃問題を検討するワーキング・グループ(WG)が設置されたが、そのWGの中で事業許可更新制が議題に上ったのである。貨物自動車運送事業許可は一度取得すると許可取り消し処分を受けない限りずっと有効だ。それを一定の有効期限を設けて、更新制にしてはどうかという検討である。

トラック運送業界で事業許可の更新制に反対する意見の中には、更新手続きのための書類作成などにコストがかかる、というのがある。たしかに、更新申請のための書類の作成などには時間が必要かもしれないが、そのための手間暇と業界健全化への効用とどちらが大きいのかという判断が必要だ。また、事業許可を更新制にすると、人的にも費用的にも行政の対応が大変になることも事実である。ちなみに2014年度末におけるバス事業者数は、乗合バスが2171社(うち公営28)、貸切バスが4477社(うち公営22)であり、トラックの6万余社とはかなり事業者数が違う。

だが、ここで最も重要なことは、事業許可更新制の導入がトラック運送業界にとって良いことなのかどうか、という点である。最初にそれが議論されるべきで、その結果、業界の諸問題の解決にとって有効だとなれば、制度導入のための諸課題(ハードル)をどのように克服すべきかを話し合うのが本来の手順だ。

事業許可更新制の導入に賛成の立場から、行政における作業負担などを試算してみよう。

全国の事業者数を6万事業者とする。それに対して運輸支局は全国に53ある(北海道には7つの運輸支局があり、沖縄県は名称は事務所だが実質的には支局)。ここでは運輸支局を50とし、事業許可の更新期間を5年としよう。

すると1年間に更新手続きをする事業者数は単純平均で1万2000社。1カ月平均では1000社である。1カ月1000社を50の支局で許可更新手続きすると、平均で1支局20社となる。1カ月の平均稼働日数を20日とすれば、1日に1支局で1社の更新審査という計算になる。

さらに、事業許可更新制の導入に伴う行政の負担軽減策として、作業量の面では適正化実施機関の権限を引き上げ、費用面では交付金を活用することを考えれば良い。交付金は正式には「運輸事業振興助成交付金」であり、運輸事業の振興に資するための使用は目的にかなっている。また、事業許可の可否の判断は行政がしなければならないが、ほぼ最終的な段階までの判断材料の精査は適正化実施機関で代行することも可能なはずだ。

このように考えると、平均で1稼働日に1支局で1社の更新審査が全く不可能な条件ではないことが分かる。事業許可更新制の導入は、行政の作業量の増加やコスト負担として、非現実的なものではない。もちろん規模の小さい運輸支局もあるが、それは運輸局管内でやりくりするようにする。そして適正化実施機関の巡回指導も、事業許可更新の際の可否判断の材料にすることを前提にした内容にすれば良い。その上で行政の不足人員がどの程度かを検討すればよいのである。

このようにみると、トラック運送事業許可の更新制も非現実的ではないことが分かる。