熊本地震や三菱自動車問題などと危機管理


熊本地震は甚大な被害をもたらした。被災者の皆様にはお見舞い申し上げます。

このような大きな災害が起きるたびに、必ず物流の重要性が云々される。しかし、「のど元過ぎれば熱さを忘れる」の言葉通りである。蛇口をひねって水が出てくれば、水のありがたさが分からないのと同じで、生活必需品などが円滑に供給されている時には物流産業の存在すらほとんど意識されない。だが、必要なものが届かなくなると物流が再認識される。

ところで、自然災害などが発生した時に最も必要なのは何かといえばロジスティクスである。非常時に備えて避難所などを適正に配置しておくことや、救援物資を受け入れる拠点施設の確保などの危機管理は当然だ。さらに災害が発生したら、道路状況を判断しながら拠点までの幹線輸送経路の確保、拠点施設から避難所までの配送ルートの選定など、総合的な状況判断と的確なオペレーションが必要になる。

だが日本ではロジスティクスという概念が希薄なような気がする。災害時などの危機対応に最も必要不可欠なのはロジスティクスで、物流はその一部に過ぎない。専門家の人たちには、もっとロジスティクス理論の研究を進めてもらうように願うものである。

5年前の東日本大震災の時もそうだったが、大きな自然災害など起きると、物流と併せてもう1つ重要性が再認識されるものがある。それは危機管理だ。東日本大震災の後で、トラック運送業界でも危機管理の重要性が強調されるようになった。そして危機管理の一環としてBCP(事業継続計画)への関心も高まってきた。

東日本大震災の直後に、物流業界でBCPを導入している事業者を探したのだが、ほとんどなかった。もっともBCPは登録制などではないため正確に把握できないということもあるが、調べた範囲では極めて少なかったのである。そのような中で東日本大震災が起きる約半年前にBCPを導入した倉庫事業者を探して取材した。同社は被害が比較的少なかったこともあるが、BCPに則って分単位で対応した各部署ごとの検証記録のコピーをもらった。

また、津波で社屋が全壊し、車両もおよそ半分を失いながら、約4カ月後には高台に移転して仮設事務所を建てて事業を再開した、東北地方の中小トラック事業者も取材した。なぜ、この事業者はいち早く事業を再開できたのか? 取材を通して分かったことは、以前から利益率の高い経営をしていて、財務内容が良く内部留保があったからである。約30台規模の事業者だが、特定荷主への過度の依存を避けて多数の取引先を持ち、積合せ輸送や、車両の稼働効率を高めるようなオペレーションなど、収益性の高い独自の事業展開をしていた。

熊本地震で被災したトラック運送事業者もいれば、幸いにも被害を免れた事業者もいると思う。かりに自社には被害がなかったとしても、売上のほとんどを依存している荷主が大きな被害を受けてしまったとしたら、自社が壊滅的な被害を受けたのと同じである。

これは自然災害には限らない。三菱自動車の燃費不正問題のような人災でも同様だ。下請け部品メーカーの中には三菱自動車への売上依存が高い企業もあり、操業停止が長期にわたると企業存続すら危惧される。トラック運送事業者も同様で、特定荷主に依存したような経営をしていると自然災害、人災に関わらず経営危機に陥る可能性がある。BCP策定以前に、基本に忠実な経営こそが最大の危機管理であることを肝に銘じることが必要であろう。