ラストマイル直前部分の無人空輸の可能性


ヤマトホールディングスとベルヘリコプター(以下ベル)は10月12日、将来の新たな空の輸送モードの構築に向けた協力で基本合意したと発表した。ベル社は米国テキストロン社傘下の企業で、両社は電動垂直離着陸機(eVTOL)を活用した物流領域におけるグローバルリーダーを目指す、としている。

ベル社は外装式輸送容器(ポッド)を搭載する自律運航型ポッド輸送機(APT)の開発を進め、ヤマトはポッドの開発を担当して、2020年代半ばの実用化を予定している。

 電動垂直離着陸機はドローンより大型の自律運行型の電動垂直離着陸機である。ベル社の自律運行型ポッド輸送機は、テイルシッター型の電動垂直離着陸機にペイロードポッドを搭載して荷物を運ぶ。時速160㎞以上で飛行し、数10㎞~数100㎞の飛行距離が可能という。小型機の最大積載量は7㎏、大型機なら453㎏を積載できる。

ヤマト運輸の宅急便でみると最大サイズは25㎏(三辺計160㎝)なので大型機なら18個を運べる。最小サイズは2㎏(同60㎝)なので、226個を同時に運ぶことが可能だ。

このようにみると両社が開発を予定している自律運行型ポッド輸送機は、現在、ヤマト運輸や佐川急便が全国各地のバス会社と進めつつある営業所~配送エリア間の貨客混載よりやや少ない荷物にほぼ相当する。

乗合バスの貨客混載では従来、350㎏までの貨物輸送が可能だった(道路運送法第82条)。逆にいえば、350㎏までの貨物しか運べなかった。だが、昨年9月からは、バス会社が、①貨物自動車運送事業の許可を取得すること、②350㎏以上の荷物を運ぶ場合には旅客の運行管理者の他に貨物の運行管理者の選任を条件とする。これら2つの要件を満たせば、350㎏以上の貨物混載輸送も可能になった。

そこで、宅配便事業者などは営業所~配送エリア間の輸送をバス会社に委託しやすくなった。営業所の近くからバスに荷物を積んで輸送を委託し、配送エリアの近くで配達のドライバーが荷物を受け取って宅配する。これによって宅配便のドライバーは、配送エリアから営業所に荷物を取りに行くために必要だった往復の時間を削減できる。

ラストマイルは宅配便会社のドライバーが担うが、ラストマイル直前の部分をバス会社に委託することで、コストダウンやドライバーの労働時間の短縮を図るというもの。一方、バス会社としては空きスペースに荷物を積むことで生産性が向上する。とくに収益性の低い路線では、バス会社にとって貨客混載はありがたい。

両社が提携して開発を進めようとしている自律運行型ポッド輸送機は、路線バスによる貨客混載の部分を、無人空輸に転換する可能性が高い。ラストマイルの直前の部分である。この部分の無人空輸の構想は合理性があり、現実的で実現性が高い。

無人の貨物空輸では、ドローンによる宅配が関心を集めている。ラストマイルをドローンで行うことで、ドライバー不足を解消しよう、というのである。だが、このような構想に対して筆者は否定的なコメントをしてきた。ドローンによるラストマイルはコスト増になり、また、必ずしも人員削減になるとは限らないからである。

 たとえばドローンの飛行距離が半径20㎞としても40㎞おきに、碁盤の目状にデポを配置しなければ配送エリアを面としてカバーできない。つまり1つのデポから配送する面積は125㌔㎡になるが、その面積で現状の配送システムならいくつの配送コースになるだろうか。配送密度などにもよるが配送コースが1つということはない。かりに4コースとすると最低でも4人のドライバーが必要だ。一方、ラストマイルをドローンでおこなうとして、1つのデポには最低でも1人を配置することになる。

 4人のドライバーの1日の平均配達個数が100個だったとしよう。それを1人がドローンで配達するとすれば、1日400回のドローン飛行を操作しなければならない。仮に10時間労働とすると、600分間にドローンを400回飛ばすことになる。1分30秒に1回である。これは出発の操作だけであり、帰着したドローンは触れない。反対に配送密度が薄いために4人のドライバーの1日の平均配達個数が50個だとすると、ドローンなら1人1日に200回の操作ですむ。それでも3分に1回は発の操作が必要だ。

 このようなシミュレーションをしていけば、どのような条件ならラストマイルをドローンにしてコスト的に合うか、といったことが分かってくる。そんなことからドローンによる宅配は、離島や過疎地などでもとりわけ宅配が困難な場所や、緊急を要する場合など、ごく限られたケースでしか実用化は難しいと思われる。それに対して自律運行型ポッド輸送機は、法的な問題を別とすれば、ラストマイルの手前の部分での実用化がかなり現実性を持っているのではないか。ドローンより合理性や実用性、経済性があるからだ。