「事業法改正」は回帰願望でなく未来志向で


 全日本トラック協会(坂本克己会長)は、議員立法で貨物自動車運送事業法の一部改正を目指す方針を打ち出した。坂本会長は「現在の事業法は施行から約30年が過ぎ、新しい時代を踏まえて見直すべきという声が全国から寄せられている」。そのような意見を集約して「10年、20年、30年先のあるべき姿をみて、社会的規制、経済的規制で改正すべき点があれば適正規制にもっていきたい」としている。

6月に成立した働き方改革関連法が来年4月から順次施行になる。有休休暇5日取得義務のように企業規模に関わらず来年4月から一せいに施行になるものもある。また、内容によっては大企業と中小企業あるいは一般則と自動車運転業務で施行時期にタイムラグが設けられたものもある。とくに時間外労働の上限規制では、自動車運転業務は5年間の猶予期間が設けられた。だが、遅かれ早かれ罰則つき規制が適用されることに変わりなく、各事業者は対応を迫られている。

一方、法令などとは別に市場原理で考えても、ドライバーの労働条件を改善しないと労働力確保が難しいのが現状だ。その結果、淘汰される事業者が出てくる可能性もある。このように法令順守はもとより労働条件の改善はトラック運送業界にとって必須の課題である。これらの現状を踏まえ、ドライバーの労働条件改善を最優先し、健全な経営の再生産のための原資確保が担保できるような事業法にすることを、改正の目的にしている。

改正案の内容は検討中だが、関係者への取材を通して改正案のポイントを整理すると以下のようになるものと思われる。

事業法改正内容のポイント

供給=事業者(物流サービス供給者)
  • 参入規制厳格化など「量」的な見直し
  • 不適切事業者(悪質事業者)の排除など「質」的な見直し
需要=荷主(物流サービス享受者)
  • 荷主対策の深度化など需要側への可能な範囲でのけん制=需要の健全性
価格=運賃(市場における需要と供給の接点)
  • 標準的運賃の公示制度の導入など最小限の価格コントロール

つまり、
① サービスの供給側には品質保証を可能とするための量的・質的な規制を設け、
② サービスを享受する需要側にも事業者が安定的にサービスを提供できるように最小限の制約を設けて需要の健全性を図る、
③ 需要と供給の接点である価格に関しては適正競争が確保できる範囲での枠組みを設定する、
といった改正案になるのではないだろうか。

周知のように運送事業法の見直しを求める声は従来からあった。だが、これまでの事業法改正要望は、端的にいうと「過去への回帰願望」だった。規制緩和が間違いだったのだから元に戻せ、という主張である。つまり過去への回帰願望であり既存事業者の既得権益を守れ、といっているに等しかった。

だが、事業法の見直しは過去への回帰ではなく、未来への前向き志向でなければいけない。「業界対策」ではなく「産業政策」としての事業法見直しであるべきだ。

今後の日本は経済のグローバル化と国内市場の縮小が進行していく。グローバル化が進めば、荷主ニーズとして安全、品質、環境、その他、求められるサービスレベルはグローバルスタンダードになってくるだろう。そうなると、安全性優良事業所(Gマーク)などは最低条件で、もっと水準の高いグローバルスタンダードの認定や認証が求められるようになってくる。すると事業者の「量」や「質」の規制あるいは見直しにしても、グローバルスタンダードなサービスをコンスタントに供給できるには、最低でもどの程度の企業規模やレベルが必要か、といった視点から法案を考えることが求められる。

国内市場の縮小への対応にしても、過疎化の進行など輸配送条件が悪化する中で、さらに少ない車両とドライバーによって安定的に物流サービスを提供するには、一定レベル以上の生産性の高さが必要だ。すると一定レベル以上の生産性を保つには、最低でもどのような規模や経営の質的水準が必要か、といった観点からの法律が必要になる。しかも、新規参入などによる自由なサービスの創造を担保できる規制でなければいけない。

運賃制度に関しても、多層構造との関連や、適正な競争を前提とした運賃制度という側面からの検討が必要だ。適正な競争とはダンピングではなく、より良いサービスをより廉価に提供できるように、生産性を向上し合う競争である。