引越約款改正と法人引越過大請求問題


周知のように6月1日から改正標準引越運送約款が施行になった。引越約款改正のポイントは以下の2点である。

① 積合せ引越にも引越運送約款および自動車利用運送(引越)約款が適用されるようになった。従来は積合せて運ぶ引越荷物は、一般の運送約款が適用されていた。つまり、引越荷物ではなく小口の積合せ荷物という扱いだったのである。だが、今回の引越約款の改正で、積合せて運ぶ引越荷物にも引越約款が適用されるようになった。

② 解約・延期手数料の請求対象日および料率が改正された。これらは引越業界においては長年にわたる懸案事項だった。とくに解約料は他の業界、他のサービスなどと比べても、事業者に不利な料率だったからだ。解約手数料改正は、
1)当日=運賃の20%以内➝運賃および料金の50%以内、
2)前日=運賃の10%以内➝運賃および料金の30%以内、
3)前々日=改正前はナシ➝運賃および料金の20%以内
である。手数料の料率もさることながら、「運賃」の何%から、「運賃および料金」の何%になったことも大きい。作業員の人件費や作業コストも含めた金額の何%となったからである。

この改正引越約款の適用にあたっては、新たに届出が必要だが、国交省貨物課によると、7月末現在の全国の届出数は約3900件(貨物軽自動車運送事業者からの届出件数も含む)ということだった。その後、増えてはいるだろうが、それにしても多いとはいえない。

引越の関連では、「引越運送に係る貨物自動車運送事業の適正な業務実施の徹底について」が、7月25日に貨物課長名で出された。法人向け引越サービスにおける過大請求問題に関する通達である。

ヤマトホールディングスの子会社であるヤマトホームコンビニエンスが、法人向け引越で代金を過大請求していた問題が明るみになった。ヤマトホームコンビニエンス本社への国交省の立ち入り検査や、山内雅喜社長の謝罪会見など大きなニュースになっている。

通達では「不適切な事案が発生することがないよう、適切な業務実施について改めて徹底するよう」全ト協会長宛に要請している。

どんな理由があっても過大請求が免責されることにはならない。また、過大請求していた営業所の数や、様ざまな状況証拠から判断すると、ヤマトホームコンビニエンスの企業ぐるみと受け取られても仕方がないだろう。

一方、法人引越に固有の構造的な問題があることも事実だ。その意味では独りヤマトだけの問題ではなく、企業引越しを行っている総ての事業者にとって対岸の火事ではない。

では、事業者側の過大請求を可能にし、また支払者側がそれに気づきづらい構造的理由とは何か。基本的には、実際に引越をする人(転勤社員とその家族)と、料金の支払い者(会社が支払う)が別だという点にある。また、企業との単独契約の場合なら指定事業者と、複数契約なら契約している引越事業者の中から本人が事業者を選定して打ち合わせや交渉をする。この際に、ほとんどの場合は企業の担当者が荷物と見積金額のチェックを本人任せにしているのが実態だ。たしかに大企業では何百人、何千人が同時に異動するので、1件ずつチェックしていては作業量も膨大なり、本人任せになるのも仕方がない。だが、これも現場と決済の乖離を大きくしている要因の1つだ。また、見積の依頼も見積書の提示もほとんどメールで行っている。これも実態と金額の差が生じやすい条件の1つといえる。さらに、料金もパック料金があったり、契約も請負契約だったりする。

このように、再発防止には様ざまな面からの検討が必要なことも事実だ。