昨年末と今年の年始は、これまでとは様相が違ってきたように見える。
たとえば小売業や飲食業などでも営業時間の短縮や、正月には休業するといったところがでてきた。若い人達には奇異に映るかもしれないが、一定の年齢以上の人たちからすると驚くほどのことではない。昔の姿に戻っただけである。
ずっと以前は、早くから商売を始める小売店でも「初売り」は1月2日だった。小売業も元旦はほとんどが休みだったのである。中には御用始めの1月4日から開店するような店もあったぐらいだ。それに小売業でも週に1回は定休日があった。
飲食店でも元旦に暖簾を下げていたのは寿司屋ぐらいなもので、ほとんどの飲食店は休んでいた。年末年始に帰省せず、アパートで1人で過ごす単身者などは、正月3が日間の食料を年末に買い置きしておかなければならなかったものである。
だがその後、経済成長の中で競争が激化し、それ行けドンドンと長時間労働が当たり前になってきた。バブル経済下では「24時間戦えますか」というコマーシャルのキャッチフレーズが流行語になったこともある。
同じ長時間労働でも、様相が一変したのはバブル崩壊後だ。同じ年中無休の競争でも、経済が拡大していた当時は成長を競い合う競争だった。だが、バブル崩壊後は競争に負けないためのサバイバル競争へと性格が一変したのである。つまり勝つための競争から、負けないための競争(その結果として勝ち残る)への転換である。
このように、いつの時代も競争はあった。その結果、営業時間を延長したり、年中無休といった営業形態が敷衍してきて労働時間が長くなってきた。だが、これらは労働力が足らなくなれば、比較的簡単に補填できるという前提で可能だったのである。
ところが前提である労働力の補充が難しくなってきた。そのことに気づくキッカケになったのは、一昨年(2017年)のヤマト運輸の取扱荷物の抑制とサービス内容の見直し、料金値上げだった。これは、過去の成功体験が通用しない時代に入ってきたことを象徴した出来事と言ってもよい。
同時に、これまでの企業間競争の「競争基準」を大きく転換しなければならないことも意味している。だが、これまでは「異常」が常態化していただけで、それを「正常」に戻す動きが始まったと認識すれば良いのである。
そのように見ていくと、郵便物の土曜日配達を休止したり、普通扱いの郵便物の送達日数制限(差し出された日から原則3日以内)の見直しを求める要望も自然の流れといえる。
物流でも、宅配便事業者が年末年始の荷物の取扱いに条件を設定するようになってきた。そのような中で福山通運が正月3が日の休業を打ち出した。1月1日(祝)から3日(木)までの3が日は休業で集荷も配達もしない。問い合わせも受け付けない。もちろん路線便の運行もない。
大手路線事業者のこのような動きに対して、従来であればライバル事業者はチャンスだから荷物を取ってこい、とハッパをかけたはずだ。しかし、これまでのような行動パターンはできにくくなっている。
この間、ドライバーの労働条件改善の必要性を多くの荷主が認識するようになってきたこと。それにより、抜け駆けするような事業者への荷主の見方、引いては社会的評価が変わってきたからである。さらにそれ以上に、そのような事業者には長い目で見ると人が来なくなってしまうだろう。つまり正月3が日は休業にするような事業者の方が競争優位となり競争力を増す。
このように「競争基準」が変わってきた。昨年は競争基準を転換する必要性が認識された年であり、年末年始の各社の対応にはその競争基準の転換が具体的な形として現れた。
この変化を踏まえて、今年からは新たな競争基準に基づく競争がスタートする。ドライバーの募集などでも、新たな競争基準を認識していないと取り残されてしまう。