最大のステークホルダーか最悪のステークホルダーか①

社長の方針を後で会長が覆しては社長の立場がない


ある企業では、創業者のオーナー経営者が会長になり、長男を社長にした。改めて名刺をもらって、あれっ、と思った。会長は代表取締役なのだが、社長には代表権がなかったからだ。それでなくともうるさい親父なのに、これでは子息の新社長も大変だな、と瞬間的に感じたのだが、その後の経緯は予感が的中していたといっても過言ではないような展開になったのである。

肩書きは変わったが、実態は以前と何ら変わらない。会長が総てを決定して指示するために、新社長としては自分の考えで経営をすることなどできない状態だった。形式的にはともかく、実質的には経営を継承などしていなかったのである。

その後、様ざまな経緯を経て、この会社は経営が行き詰まり、現在はある大手企業の傘下に入っている。もちろん、経営陣は一新した。

これほどではないにしても、経営を譲ったはずなのに以前と何も変わっていないような企業のケースを見かけることがある。社長が決めた方針を、あとになって会長が覆す。これでは社長の立場はない。

なかには、会長と社長の意見が異なり、それぞれに違った指示が出されるようなケースを見かけることもある。これでは、社員はどのように動けば良いのか。まして取引先などとの関係になると、企業としての社会的責任といった問題にもなる。そこまで大げさではなかったとしても、顧客から信用や信頼を失うことになってしまう。

中小企業でもオーナー経営者が会長に退き、姻戚関係でも何でもない人を社長に据えるようなケースもある。能力のある社長に完全に経営をまかせてしまうのなら、それは一つの方法であり、オーナーが経営するよりも会社が上手くいくこともある。

アメリカのカリフォルニア州のある中小企業を訪問した時のことである。社長との面会を約束してあり、決められた日時に会社を訪ねた。もちろん社長が出てきて挨拶したのだが、「ちょうどオーナーも在社しているので日本から来てくれたのなら挨拶だけでもしたいといっているが良いか」、という。ぜひご挨拶したいと答えると、オーナーが現れた。そこでオーナーと名刺を交換して挨拶したのだが、名刺の肩書きが副社長になっていた。

オーナーの副社長は、遠くからわざわざ来社してくれてありがとうといった後、「私はオーナーだが経営は社長が担当している。あなたは、わが社の経営に関することを聞きたいということのようだが、それは社長の担当なので彼に何でも尋ねてくれ。私は挨拶だけしてこれで失礼する」といって部屋を出て行ったのである。

その時、さすがにアメリカ的だな、役割が明確に分担されていて権限や責任がハッキリしている、と感心したものだった。同時に、日本だったらこんなことはないだろうな、とも思ったことがある。

国民性や民族性はもとより、企業風土も欧米と日本では異なるので、一概にはいえないだろう。しかし日本には、経営は任せるから社長の好きなように経営しろといいながら、実際には自分が総てを采配しないと面白くない、といったオーナーは少なくない。そのようなケースでは、社長が外部に助け船を求めるようなこともある。自分が何をいっても聞き入れないが、同じ内容のことでも外部の人がいえば話を真剣に聞く、といったことがあるからだ。そのような役割を果たしてほしいという話が、筆者にはけっこうくる。