全ト協の会報紙『広報とらっく』1月1日号の新年号企画で総論的な原稿を書くことになった。新年号企画のテーマは「今後のトラック運送事業者の生き残り策を考える(仮称)」である。その総論として、どのような切り口が良いかを考えた。
その結果、①需要(荷主)の変化、②供給(業界)の変化、③価格(運賃料金)の変化を踏まえ、④勝ち残るための戦略、⑤経営条件としての事業法、という5つの視点から私論を述べることにした。スペースの制約から定量的な分析は省き、定性的な面からの箇条書き程度で示唆することにしたのである。
ここでは、ほぼ同じ内容を掲載する。
1. 需要(荷主ニーズ)の変化
需要の変化をみるキーワードは、経済のグローバル化と国内市場の縮小である。これに基づいて荷主の企業戦略と行動が進行する。
まず、経済のグローバル化が国内の物流にどのような変化をもたらすか。今後は輸出や輸入貨物が増加してくる。それに伴って国内だけで完結する物流が減少してくるだろう。また、製造業では生産拠点の海外シフトがさらに進み、原料や中間材料の国内物流は減少する。従来は部品を海外で製造し、国内でアッセンブリしていたような荷主も、今後は完成品を海外から輸入するようになる。
一方、国内市場の縮小が進むと、国内の流通構造も変化する。市場縮小に伴い大手小売業など内需型荷主企業の再編成や淘汰も進む。競争に勝ち残る大手流通業のキーワードはオムニチャネル化で、オムニチャネルに対応した物流システムの構築が勝敗を分ける。
また消費財メーカーなどでは、従来のオフライン物流をオンライン物流に融合する動きも進行する。川下のオムニチャネル化と川上でのオフライン物流化が一体化し、消費財などの物流システムが大きく変化する可能性がある。
そのような中で、物流全体を統括する新たな業態が出現するかもしれない。現在「3PL」と称している業態も、現場業務を受託する一事業者に過ぎなくなるかもしれない。
2. 供給側(事業者)の対応
サービスを供給する側では、労働力の確保が焦眉の課題になっている。しかし10年以上のスパンでみると、日本社会は縮小均衡が形成されると思われる。とはいえ、ここ5、6年の間は労働力を確保できるかどうかで企業間格差が拡大する。5、6年の間に優勝劣敗が明らかになるだろう。分かりやすくたとえるなら、同じドライバー募集でも事業「維持」のために募集する事業者と、事業「拡大」のために募集している事業者の違いが明瞭になってくるものと思われる。
労働力確保について簡単に触れると、雇用対象の拡大(高齢者や女性など)、採用方法の工夫などが必要になる。だが、それは手法であって、基本的な解決は労働条件の改善と社員満足度の向上、すなわち経営改善に行きつく。これは経営近代化の促進力として作用するので、業界全体からみると好ましいことである。労働市場では業界内の競争ではなく、あらゆる業種・業態の企業との競争である。
このように労働力確保には経営改善が必要で、その前提は原資の確保に行きつく。そのためには生産性の向上も不可欠で、運送単品サービスの提供から、サービスのシステム化を図らなければならない。また、生産性向上と労働条件改善の両面から、手待ち時間の解消は大きな課題である。「荷主が…」云々というが、発着とも拠点は事業者が業務を受託している。現場レベルなら、事業者間で解決できる余地は大きい。
また、今後も長距離輸送が大きな課題であることには変わりないが、中継基地を設けてリレー輸送にする方法などもある。そのためにはトレーラ化(大型車とは限らない)も一つの方法だ。もちろん単車による中継輸送も可能である。
IT活用でも、業務管理だけではなく、経営管理までできるシステム化が必要になる。たとえば1運行ごとの収支が算出できる動態管理など、業務管理から経営管理へのシステム転換を図らなくてはならない。機器導入に対する考え方も「費用」ではなく「投資」という認識に転換できないと競争に負けてしまう。
デジタコやドラレコも車載固定型だけではなく、本格的な機能を有する運転者携帯型も必要になってくる。たとえば異なる事業者間での単車による中継輸送を可能にするにはそうしなければならない。
動態管理も車両単位から積荷単位(品類と数量)の管理が求められてくる。災害時のサプライチェーン問題などから、一部の荷主では、すでに部品単位の動態管理システムに着手している。
3. 価格(運賃料金)問題
運賃料金問題の本質は、ガラパゴス化した物流サービスを要求しながら、運賃は国際競争力を維持できる水準に押さえる、というギャップにある。この問題はグローバル化と産業間のあるべき関係として解決していくしかない。
国内的には、流通業の荷主では一般的になっている現状のフィー契約方式は限界にくるだろう。センター業務には有効でも、配送業務ではオムニチャネル化の進行で物の動きが錯綜化するために適応できなくなる。
また、運賃料金に対する考え方の転換も進む。すでに大手荷主の一部では、運賃は「費用」でなく、製造「原価」や仕入「原価」に組み込んでいる。事業者としては自社の原価把握は当然だが、荷主との交渉においても、従来の運賃交渉だけではなく、荷主によっては原価の見直しを要請するような交渉も必要になる。
だが、業界の現状では、そのような理論武装ができていない。
4. 勝ち残り戦略
このような中での企業戦略はどうか。まず国内戦略では、後継者問題などもあって中小事業者同士の企業買収や経営統合が増えてくる。その結果、全体的に緩やかな規模拡大が進行する。だが、積極的に買収を進めて規模拡大を図っている中小事業者にも「自分の土俵」で戦う戦略が必要になってくる。一方、年商数百億円規模の中堅事業者では、短期間に1,000億円規模になるための再編成が進む。
海外戦略では、「海外から」、「海外へ」、「海外で」のいずれかの方向を選択しなければならない。前二者は増大する輸出入貨物への対応である。さらに積極的に海外(とくに途上国)で事業展開する事業者も増えてくるだろう
5. 時代の変化と事業法見直し
国内市場の縮小と経済のグローバル化の進行に伴い、事業法の見直しも必要になるものと思われる。
現在でもコンプライアンスを軽視して経営を維持するような弊害が業界の一部にある。今後さらに国内市場の縮小が進むと、現状の事業法では一定品質のサービスを安定的に提供するという観点からは、弊害が一そう甚大になってくる可能性が高い。
一方、経済のグローバル化が進めば、品質、安全、環境(大手企業では会計基準等)などの面で、グローバルスタンダードが求められるようになってくる。グローバルスタンダードのサービス水準を安定的に提供できる最低の企業規模は、といった見直しが必要になるのではないだろうか。
これは新時代の物流ニーズに対応するには、トラック運輸産業がどうあるべきかというスタンスから、時計の針を進める方向での見直しである。「苦しいから規制を昔に戻して」という、時計の針を後戻りさせるような見直しでは業界外から受け入れられない。利用者の利便性向上には、規制(行政)と市場原理の間の、どの位置にガバナンスの基軸をおくべきか、という再検討はいずれ必要になるものと思われる。