トラック運送企業の生産性向上


トラック運送企業における大きな課題は生産性向上である。周知のように政府は成長戦略の一環としてサービス業における生産性向上を掲げているが、トラック運送業も対象業種の1つである。そのため国交省や全ト協も、トラック運送業の生産性向上への取り組みに力を入れている。

だが、国交省や全ト協にできることは生産性を向上するための条件整備であり、実際に生産性の高い経営構造の構築に取り組むのは個々の事業者である。したがって、政策主導とは別に、市場原理の面からトラック運送業における生産性向上が強く求められている。

今後の企業経営は、経済のグローバル化と国内市場の縮小を前提としなければならない。まず、経済のグローバル化という面からみると、陸上輸送のトラック運送といえども、海外企業との競争が避けられなくなってくる。これは、日本の事業者による海外進出だけではなく、日本国内においても外国の運送会社のトラックが走行するようになる可能性があるからだ。たとえば日韓両国や日中間のダブルナンバーによるトレーラの相互通行などである。

関税撤廃は、トラック運送業においては荷主企業の荷物量の変化に左右されるという間接的影響に過ぎない。それに対して、非関税障壁の見直しはトラック運送業界に直接的影響をもたらす。関係法令(道路交通法、貨物自動車運送事業法、道路運送車両法など)の見直しはもとより、安全や品質、環境などサービス品質においても、荷主がグローバルスタンダードを求めるようになってくる。するとグローバルスタンダードのサービス水準が提供できる最低の企業規模や財務内容など、企業存続の条件が変化し市場における事業展開のハードルが全体的に高くなるものと予想される。

これら経済のグローバル化への対応とは別に、国内的な喫緊の課題としても生産性向上が必須になっている。拘束時間、労働時間の短縮というコンプライアンスもそうだが、若年ドライバーを確保できるか否かが事業存続に関わってくるからだ。

ドライバー不足という点では、10年ぐらいのスパンでみれば、現在のようなひっ迫感はかなり解消されるものと思われる。理由は2つあり、1つは日本の経済、社会全般にわたって縮小均衡が形成されるからである。国内輸送量が減少し、したがって必要なトラック台数も少なくなる。もう1つは荷主企業の物流効率化が進むからである。代表的なのは共同輸配送であろう。物流の共同化は縮小する国内市場への対策だが、結果的にはドライバー不足への対応にもなる。このように10年ぐらいのスパンでみるとドライバー不足は緩和されることが予想できる。だがそれまでの間、ドライバーを確保できる事業者か否かで決定的な格差が生じる。つまりドライバーを確保できる事業者だけが、縮小均衡が形成されても勝ち残れる事業者ということになる。

そのためには生産性の向上が不可欠となる。労働時間短縮と賃金アップは、従来の経営構造からは「二律背反」だ。これまでは歩合制賃金と長時間労働の2つを前提に、経営が成り立っていたからである。そこで労働時間短縮と賃金アップという二律背反を克服してドライバーを確保できるようになるには生産性向上が必要になる。

トラック運送業界ではこれまで生産性という概念が希薄だった。運賃・料金が上がれば、それが生産性向上であるかのような認識が支配的だったからだ。

運賃・料金の値上げは収益性や採算性の向上ではあっても生産性向上ではない。トラック運送業における生産性向上は、①より安いコストで同じ売り上げと利益を得る、②同じコストでより多くの売上と利益を得る、③より安いコストで売上と利益を多くする、④コストを増やしてもそれ以上に売上と利益を伸ばす、ことである。

では、生産性向上には具体的にどのような取り組みが必要か。

トラック運送業の業務内容別の生産性向上のポイント

運送業務
  • 輸送=待機時間の短縮 稼働効率の向上 走行時間の短縮など
  • 集配=効率的配車 配送と集荷の組合せ 配送コース削減など
  • 運行管理=安全運転や省エネ運転の徹底などによるコスト削減
物流センター業務
  • 施設活用=施設という経営資源でも利益を生み出す
  • 庫内作業=ローコストオペレーションの追求など
  • 集配車との連携=荷受や出荷作業と集配車両との効率的連携

このうち待機時間短縮への取り組みでは、発着いずれの物流拠点もたいていは物流事業者(トラック運送事業者)が業務を受託して行っている。したがって現場レベルでの改善なら、かなりの部分は事業者同士の取り組みで実現可能なはずである。

物流センター業務でも、施設という経営資源自体でも利益を生み出せるかどうかは利益率に反映してくる。どうしたら施設からも利益が生み出せるか。この辺にも生産性向上のカギの1つがあるようだ。

肝心な運送業務(輸送・配送)で生産性を向上するのは、積載率、実車率、回転率の3率向上である。さらにもう1つ、長中距離輸送では車両の大型化による積載量の増加があるが、その場合でも実車率と回転率が伴わなければ生産性向上にはならない。

長距離、中距離、近距離輸送に共通するのは積載率の向上で、さらに長距離、中距離輸送では車両の大型化による積載量の増加もある。その他、長距離輸送では帰荷の確保によって実車率を高めることが生産性向上のポイントである。

なお、実車率という場合に、従来は往復で荷物が確保できていれば実車率100%という発想だったが、往きの荷物を降ろしてから帰りの荷物を積み込むまでの空き時間も含めて考えることが重要である。さらに単位時間当たりのコストと収受運賃という要素も加えれば、レベルの高い生産性管理の社内指標ができる。

中距離輸送での生産性向上には、積載率の向上と積載量の増加の他に、実車率を重視するかあるいは車両の回転率を優先するかの判断が必要になる。帰りの荷物を積み込むまでの待ち時間が長ければ、空車で帰らせても車両をもう1回転させた方が良いからだ。

一方、近距離輸送では積載率向上と、車両の回転率を高めるようにすることが生産性向上の基本である。しかし、場合によっては車両を小型化して積載量を減らし、それ以上に回転率を上げた方が生産性が高くなるケースもある。

このように純粋な輸送・配送業務において生産性を向上するには、3率を高めることや積載量の増加などの組み合わせを考える以外にはない(オペレーションでは省エネ運転の追求がある)。その中でもとくに長距離輸送は生産性を向上するためのアローワンスが小さい。反対に、拘束時間、長時間労働の改善が最も求められているのが長距離輸送である。

そこで高速道路を利用するような長距離輸送においては、1人のドライバーが連続して勤務する時間(休息時間なども含めて事業所を出発して事業所に戻ってくるまでの時間)の短縮が大きな課題になっている。その方策の1つが中継輸送システムの導入である。

その際、ETC2.0の技術的応用などによる生産性向上もこれからの課題の1つである。