1歩先を知りながら、半歩先で話せること④

社内会議が社長の「知識」の披歴の場になっていないか


1歩先を知り半歩先で語るという話に戻れば、前回紹介した経営者と同じような別の例もある。

これもある上場企業の社長との話の中でのことだ。その企業は増収増益をずっと続けていた。しかも、経常利益率は7%台で推移していた。その業界では「勝ち組」と呼ばれ、注目されていた企業である。

したがって、その会社の幹部をはじめ従業員は、一所懸命に努力さえすれば現在のままの形でどこまでも成長し続けると確信していたに違いない。

しかし、筆者は躍進の基盤になっているビジネス・モデルが永遠に続くとは考えていなかった。そこで、現在のビジネス・モデルはやがて限界にくると思うが社長はどのように考えているか、と聞いた。すると「自分もそのように思っている」という答えが、いともあっさり返ってきたのである。

率直に、さすがですね、と言って次の質問を続けた。会社の中にそのことを分かっている人が社長以外にいますか? 少なくとも私の知る限りでは、現在の躍進のベースになっているビジネス・モデルの限界を認識している人は、役員の中にすら1人もいないと思いますが、という質問である。すると、この問いにも即座に「誰もいないよ」と言って、軽くほほ笑んだのである。

さらに、ではどうするんですかと聞くと、だからすでに次の手を考えている、という。それは「先ほどあなたに話した新しい試みがそうだ」と言うのである。

そして、現在のビジネス・モデルの限界や、新しい試みがその限界を打破するために必要になることを、いまの時点で社内で話しても誰も理解できないだろう。だが、新しい試みが具体的な形(一定の売り上げ)として現れてきた時に説明すれば、はじめて皆が理解できるようになる、と語ったのである。

増収増益を続けている企業では、社長をはじめ全社員が自信を持って邁進していて、現在の経営路線で努力さえすれば業績が伸び続けると確信している。そのベースになっているビジネス・モデルが、いずれ限界にくるなどという認識は極めて薄いのが普通だ。

しかし、その社長は限界を知っていて、次への布石を打っていた。

それだけではなく、いま説明しても理解できる者はいない。次の手がある程度具体的な形をなしてきた時に、現在のビジネス・モデルの限界も含めて話し、初めて理解させることができるのだという認識を持っていた。

これも、ある上場企業の社長で、先の社長と筆者と3人で鼎談したこともある経営者である。この社長に先の社長の話を紹介したところ、即座に「トップと同じレベルの認識をもっている役員がいたら、そのような人は会社を辞めて自分で起業し、今ごろ競合会社になっているよ」と笑った。

この社長は若い経営者で、創業以来、急速に業容を拡大してきた。やはり「勝ち組」の代表格として注目されている1人であった。非常に割り切った考え方をしているな、と感じた次第である。

これらの取材経験から言えることは、要するにトップは先ざきを予測し、1歩先の考えを持っていなければならない。当然のことである。

しかし、自分では1歩先のことを考えているからといって、それを社内でそのまま話してもみんなに理解させることはできない。話すときには半歩先の内容で話さなければ社員はついてくることができない、ということである。

社員が誰も理解できないのに、知識を披歴して満足しているような経営者ではいけない。「うちの社長は勉強家なので社長の話は難しくて我われには良く分からない。社長について行くのは大変ですよ」、などと幹部社員から言われて悦に入っているようでは、経営者としてダメなのである。

それは社長の「理想論」に対する揶揄であり、同時におべんちゃらと受け止めた方がよい。

このように経営者が心がけておかなければならないのは、1歩先を考え、社内で理解させるには半歩先で話せ、ということである。