「部下」しか使えない社長と「人」を使える社長④

社員の多様な可能性を育てて活かすことができる社風かどうか


経営者だけではなく、管理者も自分の器を超える人材を使いこなすということは難しいものである。あるいは、自分にはない能力を補うような人材を使いこなす、と言い換えても良いかもしれない。

何年か前のことになるが、ある中堅事業者が開催するイベントに行った時のことである。この中堅事業者は昔から毎年秋に労働組合との共催で、従業員とその家族、会社を定年退職したOBやOGの人たち、さらに事業所が所在する地域の人たちにもオープンにしてイベントを行っている。イベントでは毎年、その年の4月に入社した新入社員たちが自分たちで企画した催しを、特設の舞台で披露するコーナーがある。

ある年の新入社員たちは、このコーナーでリンゴの皮むき競争をした。たいていの人は、そのままナイフで皮をクルクルと剥いていく。それだけでも上手な人とそうでない人が分かる。器用な人は途中で皮を切ることなく、しかも薄く長くつなげたまま短時間で綺麗に剥き終わる。剥いている途中で皮が何度も切れてしまい、剥き終わるまでに長い時間がかかる人もいる。

ところが、それとは異なる行動をした新入社員が2人だけいた。1人は最初にリンゴを4つに切り分けた。そして、4分の1に切ったものを1つずつ皮剥きしたのである。もう1人はナイフなど使わず、丸かじりして食べてしまった。そして食べ残った芯を高く掲げて皮を剥いたことをアピールしたのである。とくにルールが設定されていたわけではないので、どちらも違反ではない。

たいがいの人は皮剥き競争といわれれば丸いまま皮を剥くのが普通だ。4つに切って皮を剥いだ人や、丸かじりした人は、その方法が一番早いので優勝できると考えたのだろう。あるいは、単に奇をてらってウケを狙ったに過ぎないのかも知れない。

いずれにしても、この2人のように他の人たちとは違った発想と行動をする個性が、仕事の中で能力を発揮できるか否かは、職場環境によって大きく違ってくる。個性が涵養されて開花するかどうかは、企業風土や直属の上司の許容力などによって決まってくるだろう。そして、そのような社風の頂点に社長がいることになる。

一方、普通の方法できれいに素早く皮を剥くことができる人はいわば「模範社員」である。上司や経営者からすると、計算できる貴重な戦力といえる。同時に「管理」しやすい社員でもあり、直属の上司にとっては有能な社員となる。したがって実際の日常業務においては、このようなルーティンの処理能力が一般的に高く評価されている。

もちろん個性派も必要であるし、模範社員も会社にとっては貴重な人材である。両方とも必要な人材なのだ。しかし、往々にして前者は敬遠され、会社という組織から弾き出されしまうケースが多い。

それは部下として、あるいは社員としては使いづらいからである。“部下”として使いやすいのは後者であり、前者は“人”として使いこなせない経営者や上司にとっては厄介な存在とされてしまうことがある。

しかし、経営環境が厳しさを増し、事業を行っていくための諸条件が著しく変化する中では、常識を破る発想や行動力が重要になる。

有能な人材がいないと嘆く経営者が、どのような有能性を求めているのか。欲しい人材とは、どのようにリンゴの皮を剥く若者なのか、まず、それを頭の中で明確にすることが必要ではないだろうか。