「部下」しか使えない社長と「人」を使える社長①

部下は社内で叱りなさい、取引先で部下を叱る愚


ある中小事業者の話である。従業員が仕事上でミスを犯してしまった。それに対して取引先からクレームが入った。すると、その社員の上司である経営者(代表者ではない)が、ミスを犯した社員を伴って取引先に謝罪に行ったのである。

ここまでは、ごく普通のことである。ところが、取引先に行ってからがエッ! と驚いてしまうような展開になったようだ。

荷主企業の内部の事情に詳しい人から聞いたところによると、その経営者はミスをした部下を、荷主企業の担当者の前で凄い剣幕で叱ったというのだ。常識的には考え難いことである。

おそらく、ミスをした部下に対してわが社ではこれほど厳しく叱責しています、というところを取引先の人に見せようとしたのだろうと推測される。

これは筋違いもはなはだしい。何のために上司が謝罪に行ったのか? たしかにミスをした当事者はその従業員(部下)であったかもしれない。しかし、企業間で契約して仕事をしているのだから、取引先に対しては会社として責任を取らなければならないのだ。そのために上司(経営者の1人)が、ミスの当事者である部下を従えて、会社を代表して謝罪するために取引先に行ったのではないのか。

普通だったら、取引先からのクレームに対して、まず社内で取引先の言っている内容が本当かどうかを当事者や事情を知る関係者などから事実確認し、どのようなミスだったのかを明らかにする。次に、なぜそのようなミスが発生したのか、担当者個人の問題点や責任はもとより、ミスを誘発しやすい仕事の仕組みや条件など会社としての組織的な問題点と責任も分析する。

そして、二度と同じミスを起こさないための対策と、万が一ミスを起こしてしまった場合の対応策などを明確に打ち出す。さらに、これらを全社的に周知し、教訓を社員全員が共有する。

また取引先に対しては、責任者が謝罪をし、損害が発生した場合には契約に基づいて賠償などを話し合うとともに、ミスの原因、同じミスを再び起こさないための方策などを説明して納得してもらうのが筋であろう。それが企業間の取引であり、取引先に対する会社としての責任の取り方というものである。

ミスをした本人が責任を負わなければならないのは会社に対してであり(ミスの原因如何によっては)、あくまで社内的な問題である。したがって、社内で叱られ反省を求められるのはしかたがない。

しかし、このような社内の事情は取引先にはまったく関係のないことである。

取引先の担当者の目の前で、ミスを犯した従業員(部下)をどんなに厳しく叱っても、取引先にとっては迷惑以外の何物でもない。また、そんなことをすれば、逆に取引先から経営者の器量と会社のレベルなどを見透かされてしまう。

人伝にこのような話が耳に入ってきた時、なぜ、そんなことをするのだろうと考えた。

結局は会社や経営者(上司)の責任ではなく、ミスを犯した社員個人の責任ですと言い逃れしたい心理が強く働いているのではないか、と推測するに至った。そのような意識が、前述のような行為になったのではないだろうか。

聞くところでは、ミスをして取引先の担当者の前で叱られた社員は、その後、間もなく会社を辞めたという。一見すると、ミスの責任を痛感して辞めたような形であるが、実際には会社に見切りをつけて辞めたのであろう。このような上司(経営者の1人)のいる会社なら、辞めたことが正解といえる。

このように経営者(あるいは管理者)は、外に向かって自分の責任を逃れてはいけないのである。ましてや、取引先に部下を伴って行って、先方の担当者の前で叱りつけるなど、自分自身の器の小ささを吹聴して歩いているようなものであり、また、会社の評価を下げる以外のなにものでもない。