運営は社長がいなくても大丈夫な会社にする④

すべて社長が指示しなければ動けない会社は大きくなれない


中小企業のオーナー経営者の場合には、自分が会社を離れられない、という人も少なくない。何かがあった時に、即時に対応できる人が自分以外に会社にいないからである。

このような経営者は、トラック協会などの業界団体や異業種が集まって構成している経営者の団体などが主催する会合やセミナーなどにも、同様の理由で参加できないと答える。実は、自分の好みの会合などには何をさしおいても出席しているのだが、あまり気乗りしないような内容の会合などでは、自分が会社を離れることができないということを不参加の理由にしているケースも見受けられる。

それはともかく、本当に経営者が会社から離れられないような事情の企業があることも事実だ。実際に、それだけの余裕がないのである。とくに最近では、できるだけ余剰人員をへらし、従業員を最小限に絞らなければ経営が成り立たないほど厳しい状況におかれている中小事業者も少なくない。

中には通常は社長も現場で働いているような中小事業者もある。あるいは社長が現場には出なかったとしても、事務員なども最少の人数にしているため、社長が事務所で電話の応対などをしており、子息の専務は毎日現場の第一線といった中小事業者も決して珍しくはなくなってきた。

そのため、昔は平日の昼間に開催していた同業者団体の会合などが、最近は土曜日の夕方からになっているようなケースも見受けられる。それだけ経営環境が厳しくなっているのである。

しかし、経営者が会社を離れられないような状況のままで良いのだろうか。そのような現状からいかに脱却するか、ということも経営者として取り組まなければならない大きな経営課題の一つなのである。

むかし中小企業の若手経営者と、ある団体の会合で毎回のように顔を会わせた。若手経営者はその団体の会員として参加し、筆者は取材記者という立場でほとんど毎回のように定例会に顔を出していたからである。

そのようにして顔を会わせたある時、会合が終わってから2人で話をする機会があった。

この経営者は、父親が会社を経営しているが、その会社とは別に自分で新しく会社を興した。仕事上では父親の会社と関連する業務内容の仕事をしている会社なのだが、自分で会社を興して自力で経営者としての能力を試そうとしたのである。いずれは父親の会社の経営を継ぐにしても、その前に経営者としての自分の力を試したかったからだ。

そのため創業するに当たっての資金も、父親には頼らず自分の蓄えで会社を設立した。父親の経営する会社で働きながら、新会社の創業資金を蓄えたのである。

もちろん、会社を興せば運転資金なども必要になり、銀行から借り入れなければならないこともある。これら融資の手続きは自分1人で行ったとしても、金融機関などからすれば、父親の存在自体が無言の「担保」になっていただろうことは否めない。かりにそうではあったとしても、ともかく自力で会社を興した。

当然、最初は小規模な企業である。会社を設立した当初は、社外の会合などに出席するような余裕など本当になかった。

ところがこの若手経営者は、自分が同業者や異業種の経営者と交流するため、会社を離れることができるような会社にしようと、まず考えたのだという。そのためには一定の人数を雇える規模にならなければならない。それだけではなく、自分が会社にいなくてもたいていの問題は管理職が自分の責任において判断できるような会社にする必要があると考えた。

会合で筆者としばしば顔を会わせることができるようになるまでには、そのような経緯と事情があったのである。そして、「ここまで来るには大変だった。自分が毎回出席できるようになったのは、会社がそれだけ成長した証ですよ」、と言ったのである。

考え方によっては、社外のセミナーに参加して著名な講師の話を聞くことも経営の参考になるが、それ以上に、経営者が安心して講演会に出かけられるような会社にするために目的意識的に努力する過程の方が、よほど経営の実践的な勉強になっていると言えるのではないか。

さらには、社外の会合などに出席している時には、携帯電話の電源を切ることができるような会社が理想的であろう。といっても、常に秘書を帯同することができるような規模の企業ならともかく、中小企業では万が一の事態に社長が対処しなければならないような場合ももちろんある。その時の連絡手段として、携帯電話が必要かもしれない。そこで、携帯電話をマナーモードにしておくことは仕方がないとしても、会社から携帯に電話がかかってこない。連絡がこないことが一番の安心であるような会社にすることが、経営者の重要な仕事の一つなのである。

「つまらないことまで、いちいち私に聞いてくる」と口ではつぶやきながら、実は、そのような状態に心底では満足しているようではいけない。自分には何も聞いてこないような状況にすることが、最も良い経営状態なのだと思えるようになることが重要である。