耳に痛いことを言ってくれる人を信じよ②

第三者からの客観的な評価を参考にする


ずっと昔、物流業界を取材するようになる以前のことである。ある上場企業の子会社とのエピソードだ。

この会社は当時、ある業界で売上規模が3位であった。しかも上位2社の売り上げが伸び悩んでいる中で、同社だけが売り上げを伸ばしていた。しかも、その業界では利益率も利益額もトップだった。

つまり、業界で注目度が一番高い会社だったのである。そこで、その理由がどこにあるのか、様ざまな角度から取材をしたいと申し込んだ。

広報などを担当している取締役に取材の趣旨を説明した。この部門では誰、こちらの担当では誰と、取材をしたい部署と取材したい役職の人のリストを提出したのである。すると、取材を希望する人とのセッティングはもとより、開示できるデータなどは総て提供して、できる限りの協力はします、という回答を得た。

ただし、条件が1つだけついた。それは、「当社をただ褒め上げるだけの記事は書かないでほしい」というものであった。

可能な限りの取材協力をするので十分に取材をしてほしい。その上で、第三者の立場から客観的に分析し、評価すべき点は評価していただくのはありがたい。反対に当社の弱点や欠点があれば正直に書いてほしいというのが、可能な限り取材に協力するための唯一の条件だったのである。

その理由について、その役員は次のように言っていた。「私たちは常に、自社をできるだけ客観的に分析するように努めている。会社が発展するために必要だからである。しかし、自分たちでは気づかない点が多々あるがはずだ。そこで、専門分野のジャーナリストという第三者の立場から分析して、自分たちでは分からない客観的な眼からみた課題や弱点などを指摘していただくことは企業にとってありがたい」ことだと言うのである。

ちなみに、この取締役は広告出稿などに対する考え方も、自社に都合の良いことを書いてくれるから広告を出すのではない、という考え方だった。自社に対しても第三者の立場から是は是、非は非と書くような専門的クオリティをもった媒体こそが、自社にとっても自分たちの業界にとっても、存在意義のある媒体なのだという認識である。

そして自社を含む業界にとって必要な媒体であるならば、広告出稿などによってその媒体が存在できるように経済的に支えるのは、企業としても業界としても義務である、と語っていた。

そのように言われたからではないが、当然、同社があまり触れてもらいたくないだろうと思われるような内容についても書いたことはいうまでもない。しかも、記事掲載後にお礼を言ってもらった。

これは極端な事例かも知れないが、経営には第三者からの客観的な意見や評価を参考にすることが必要なのである。