客観的に経営を診断してもらう、という点では外部からのチェックを受けることも一つの方策である。ところが、ここにも落とし穴があることを心しておくべきだ。
ある中小事業者の話である。この事業者は当時の年商が約60億円規模であったが、それまで取材などでの関わりが全くなかった。
ある日、その会社の社長から電話が入った。もちろん、電話で話すのも初めてである。話の趣旨は、会いたいので当方の事務所を訪ねたいというものであった。そこで、日時を決めて会うことにした。
約束の日に、その社長はオーナーである会長と一緒に事務所にきた。オーナー会長は創業者で長年にわたって社長をしていた。会長と社長は姻戚関係でも何でもない。社長は全く違う業種の会社に勤めていたのだが、理由があって現在の会社に転職した。そこで能力を認められて、結果的に社長になったのである。
話の趣旨は、取締役会とは別に、取締役のメンバーに社外の人を何人か加えて経営委員会を設置したい、ついてはその経営委員会の委員になってもらえないか、というものであった。
これには驚いた。そこで、これまで面識がなかったのに、なぜ当方に白羽の矢を立てたのかを尋ねた。すると、あるセミナーで私の話を聞いたのだという。だから社長は私の講演を聞いて知っていたことになるのだが、当方からすると初対面である。いきなり社外から経営委員になってくれとは、いかにも唐突である。
有限会社にしているが、1人だけの会社であり、実質的にはフリーランスである。独立して1人で仕事を始める時、旧知の経営者の人たちの何人かから顧問契約の話をいただいた。しかし、総てお断りした。コンサルティングをしていくのなら顧問契約もかまわないだろうが、ジャーナリストとして食べていくには特定企業の顧問になるのはまずい。ニュートラルな立場を保持することが前提条件になるからだ。そこで、ありがたい話だし顧問料は喉から手が出るぐらいほしのが正直なところだが、あなたを批判する権利を持ち続ける方を選ぶ、と言って断ったのである。
その後も顧問の話やコンサルティングなどのオファーがあるが、総て断っている。それらの仕事を請ければそれなりの収入を得られるだろうが、「痩せ我慢はジャーナリストの必要経費」という信条を貫いてきた。
そこで経営委員の話も断ったのだが、それにしてもたった一度、講演を聞いただけなのに、なぜ経営委員を依頼しようと思ったのかを訊いてみた。すると、「これまで何人かのコンサルタントや、経営のアドバイスをしてもらえるような人を知っているが、契約をして報酬を払うようになると、金を払ってくれる人に都合の良いことしか言わなくなってしまう。それでは金を払う意味がない。その点、講演を聞いていてこの人は金をもらっても金を払う人の悪い点は悪いと言う人だと思ったから経営委員を頼みに来た」という。
この一言にコロリと参ってしまって、例外的に2年間ほど社外経営委員を引き受けたのである。ただし、一つだけ条件を付けた。定期的に報酬をもらうことはせず、経営委員会が開かれた時だけ実費の交通費と日当を支払ってもらう、という契約である。