経営における足し算と引き算⑦

ノーブランド逸品を見抜く力と「1.5世」というカテゴリー


創業経営者と比較すると一般論として2世経営者は知識がある。講師の話を理論的に、体系的に理解できる能力がある。そして理論的に納得したり、異を唱えたりすることができる。

もっとも、中には様ざまな経営書などを読んでいるのだが、いずれの理論も半可通で自分のものになっていないにもかかわらず、屁理屈を並べて質問したりする2世経営者を見かけることもある。質問というよりも、自分の知識を披露したいのだろうと思われるようなケースもなくはない。そして、結果的には講師の話から何かを得て経営に活かす能力がないような人もいる。理屈先行で、実践的には何も得ていないことになる。

若い2代目経営者の中には、理屈が先行してしまい、いかにも背伸びしているな、と危うさを感じるような人もいる。理論は一人前で、ITなどのツールだけは目新しくしているのだが、実際の経営は先代が築いた土台の上に乗ったままなのである。孫悟空がお釈迦様の手のひらの上で暴れまわっているごとくである。

筆者は2代目経営者の経営能力を評価する基準を、すでに先代を超えた2代目経営者か、まだそこまでは至っていないがいずれは先代を超える可能性を秘めた2代目経営者か、それとも先代経営者を超えられそうもない2代目経営者か、という点においている。つまり、リストラクチャーをして自分独自の経営路線に軌道修正できたか、あるいはリストラクチャーを成し遂げる可能性を秘めている経営者か、リストラクチャーができない経営者かという見方である。

先代を乗り越えられなければ、小手先の経営近代化をしたとしても、本質的には先代社長のエピゴーネンに過ぎない。オーナー会社の場合、相続権があれば会社は相続できる。しかし、経営能力まで相続できるという保証はない。そこで、背伸びしてつま先だって歩いているような2世経営者を見かけることにもなる。

ブランド品は、誰からも値段を評価してもらえる。しかし、ノーブランドでも腕の良い職人のハンドメイドの価値を見抜ける人は少ない。それには確かな「眼」が必要だからである。2世経営者もブランド志向ではなく、ハンドメイドの価値を見抜けるようになるための研鑽が重要だ。

創業経営者であれ、2代目以降の経営者であれ、理想的で一番良いのは知識があって知恵もある経営者であるが、このような人はそんなに多くはいない。だから優れた創業経営者は直感型であり、優れた2代目経営者は理論型と一般的に分類することができる。このような仕組みにすると利益が多く生み出せる、と本能的ともいえる直感で閃いてしまうタイプの経営者か、論理的な合理性を裏付けに利益を生み出す仕組みを構築するタイプの経営者かの違いである。

ところで、中には創業経営者の長所と、2代目経営者の長所の両方を持ち合わせたようなタイプの経営者がいる。筆者が「1.5世」と命名しているタイプの経営者である。

1.5世とはどのようなカテゴリーなのか。同じ1.5世といっても、様ざまなタイプがある。たとえば、経営者としては2代目になるのだが、先代は経営者としての能力が秀でているとはいえず、事業は興したが小規模な「家業」的経営を辛うじて維持してきた。このような家業を引き継いで、経営内容を改善し、事業を発展させたようなタイプ。あるいは、若くして自分で事業を興したが、対外的な信用(資金調達など)のハンディを上手にクリアするために、社長には父親を据え、自分は代表権をもった取締役として実質的には経営の総てを切り盛りし、一定の実績をつくってから社長に就任したようなタイプ。実兄が創業者で、請われて経営を手伝うことになったが、経営手腕は創業者の実兄よりも弟のほうが優れていて、創業社長の兄は会社の象徴的な存在となり、実質的な経営は弟が一切を仕切るようなタイプ。平均的な運送会社を引き継いで独自のサービスなどを創造することで物流企業に飛躍させたようなタイプ。

その他にも様ざまなタイプがあるが、いずれにしても創業者でもなく純粋な2世とも異なるようなタイプの経営者を1.5世というカテゴリーでとらえると、1.5世にはユニークな経営者が比較的多くみられる。これはおそらく、創業者と2世経営者それぞれの長所を併せ持つことができるような環境、条件にいるからではないだろうか。

ともかく創業社長は足し算だけではなく、引き算の仕方を知ること。2代目以降の社長は、まず引き算から着手し、その次に足し算をすること。企業を発展させるには、これが重要である。

ありきたりかも知れないが「強い者が生き残るのではなく、変化に適応できた者が生き残る」と言われる。イギリスの哲学者・社会学者・倫理学者であったハーバート・スペンサーが社会進化を研究する中で、1864年に「survival of the fittest(適者生存)」という造語を使ったのが始まりと言われている。

社歴の長い会社をみると、たしかに時代の変化に適応してきたことが分かるが、創業者から2代目経営者へ、2代目から3代目経営者へとバトンを引き継ぐ過程で絶えずリストラクチャリングが行われている。つまり上手な引き算と足し算が時代の変化への適応ということになるのだろうと思われる。