経営における足し算と引き算③

引き算のタイミングを失すると発展が止まってしまう


話を戻すと、創業経営者が足し算を基本に事業を発展させてきた企業でも、ある発展段階に達すると、思い切った引き算をしなければそれ以上には企業が発展できなくなるような局面に遭遇する。その時には創業経営者であっても、引き算をする必要が生ずる。

足し算だけで企業規模が拡大してきても、ある段階に達すると、各事業分野の中でも収益性が低い部門や、さほど将来性が望めない部門から撤退した方が、将来の企業の発展のためには良い場合があるのだ。この時、引き算をすることを躊躇ったりしていると、経営全体の足を引っ張ることになってしまう。

したがって、足し算を基本に経営をすればよい創業経営者でも、企業がある段階まで発展すると、引き算をする必要が出てくる。その時に引き算をせずにいると、企業の発展がその段階で止まってしまい、それ以上の飛躍ができなくなる。ここで引き算ができるかどうかで、一応は成功者といわれる創業経営者の企業規模が決まってしまうのである。つまり、同じ成功者であっても、普通の成功者で終わるか、大成功者となるか、「成功」の大きさが決まってしまうのである。

このように創業経営者といえども、ある段階で引き算ができなければ、それが企業の限界となる。上手に引き算をして、その後、再び足し算ができる創業経営者が、大成功者になれるのである。

創業経営者が企業の一定の発展段階では引き算をしなければならないというのは、必ずしも拡大した事業の中で不採算あるいは将来性が望めない分野から撤退するという意味だけではない。場合によっては、成功している事業からも自らを遠ざけ、一定の距離を保つようにしなければならないこともある。

それは、自分が手塩にかけて育てた子供であっても、子供の成長段階に合わせて、自分から距離をおくようにして、自立心を喚起しなければならないことと似ている。

どのような業種の企業でも、独自の商品やサービスを創造して業績を伸ばすようなケースがある。このような企業の経営者は、その業界からはもとより、異業種からも注目を集め、経営者のセミナーなどで講師として招請されることもある。

すると、たいていは独自の商品やサービスの開発過程と経営者自身のサクセスストーリーが混然一体となった話になってしまう。いうまでもなく創業経営者は個性が強い。また、新商品や新サービスは、苦労の中からちょっとしたヒラメキがキッカケとなって生み出されてくることが少なくない。そのため、経営者のサクセスストーリーと新商品や新サービスの発想と成功が一体となって語られることになるのだ。経営者の思い入れもあるので、そのようになってしまうことも理解しなければならない。

したがって、ある程度はやむを得ない。とくにその新商品や新サービスが生み出されて間がない時点では、仕方がないこともある。しかし、その新商品や新サービスがある程度まで成長した時点では、自身のサクセスストーリーと切り離して、成功の要因を客観的に語れるようにならないと、聴衆は鼻白んでしまう。

その時、子供の成長に合わせて距離を置き、子供が自立するように見守るのと同様の心境になれるかどうか。これは経営者の度量の問題でもあるが、自分が生み出した新商品や新サービスを客体化できるかどうかが、より大きく発展するかどうかにも関わってくるのである。どのように思い入れの強いものであっても、徐じょに客観的に観ることができるようにならなければ、それ以上に発展させるためには、どのようにしなければならないかが分からなくなってしまうからである。

ともかく、創業経営者の経営の基本は足し算であるが、ある段階では引き算が必要になることもある。ストラクチャーが基本であっても、さらなる次の飛躍のためにはリストラクチャーが必要な場面もある。経営者としてその判断ができるかどうかが重要である。