ますます重要になる残業時間短縮


「残業代ゼロ(高度プロフェッショナル制度)」も一体化した労基法改正案が国会に上程されるようだ。しかし、それとは関わりなくトラック運送業界にとって残業問題は大きなテーマである。トラック運送事業を行うに当たって、これからますます高いハードルになってくることは間違いない。

2月中旬からこの間の「宅配便報道」では、時間帯指定見直しや料金値上げが話題の前面に出ている。だが、その底流には未払い残業代など労働時間問題が横たわっていることに注目すべきだ。

大手新聞や週刊誌の記者などは、3月下旬ぐらいからヤマト運輸のドライバーに対する取材を進めていた。未払い残業代を申請するには、タイムカードの記録とは別に残業をしていたことを立証する責任が各ドライバーにある。だが、厳密な立証を求められれば現実には申請が難しい。いちいち記録などを残しているドライバーはほとんどいないだろうからだ。そこでドライバーが所属している営業所の所長の判断や裁量の違いが、未払い申請金額を大きく左右する。つまり実際の未払い残業時間とは別に、ドライバー間で申請金額に格差が生じ、それに対する不満がかなり蓄積されていたようだ。

そのような中で佐川急便は、正社員のドライバーの一部で週休3日制を導入した。週休2日制では1日8時間で週40時間労働のところを、週休3日制のドライバーには変形労働時間制を活用し1日10時間で週40時間労働にする、というもの。

これは人材確保のために多様な働き方ができるようにする、という目的である。だが、もう1つの狙いは残業時間問題だと理解すべきだろう。週休2日制では1日8時間労働だが、現場の実態からすると8時間で仕事が終わることは考えられない。そこで分かりやすい数字を使って考えてみよう。かりに毎日平均10時間働いていたとする。つまり1日の平均残業時間が2時間だ。すると1週間の平均残業時間は10時間になる。

だが、週休3日制で1日の基本労働時間を10時間にすると、残業時間はゼロになる。すると残業代がなくなるので、各ドライバーの給料は減ってしまう。そのため佐川急便では、週休3日制で兼業も容認するとしている。

この狙いはどこにあるのだろうか。まず第1には、未払い残業代訴訟などを起こされる可能性が低くなる(可能性がゼロにはならないが)。第2は中期的な視点である。1カ月の最長残業時間や年間の最長残業時間の規制がだんだん短くなることは間違いない。それへの対応策と理解すべきだろう。

週休3日制導入にともなう兼業容認について、業界人の中からは「兼業容認は問題あり」という指摘もでている。また、ある会合ではダブル・ワークについての話題がだされた。ダブル・ワークを認めようという流れもあるからだ。

トラック運送業の立場から兼業が懸念されるのは、自社以外の仕事の疲労などが安全面やその他に影響するリスクなどである。そこで、メインの雇用関係にある会社の仕事に支障が生じない範囲でダブル・ワークを認める、というような歯止めなどについても議論が及んだ。「では、どちらがメインの雇用関係か」となり、常識的には社会保険に加入している方がメインの雇用関係で、そうでない方がサブの雇用関係だろうとなった。

だが、健康保険も厚生年金も財源が乏しくなっているので、政府は両方の会社から社会保険料を徴収するようにしてくるのではないか、という落ちがついた。

いずれにしても、トラック運送事業者にとって残業問題は今後の大きな課題であり、各社各様の対応策を具体的に講じなければならない。