優れた社長は社長という役を演じ切っている②

自分が期待したような意見を第三者に欲している


「君はどう思う」と問われた時に、どう答えるべきか。同じような場面に遭遇することが珍しくないので、経験から学んで答え方を2つ用意している。

一つは、まだ最終結論を出していない時点で前述のように問われた時の答えである。結論を出す前なら、自分の考えを率直に話す。たとえそれが問いかけてきた人の意に反する意見だと分かっていても、第三者としての考え方をストレートに述べることにしている。

経営者が「君はどう思う」と他者に問う場合、自分の考え方がやはり正しいのだ、ということを裏付けてくれるような答えを心の中で期待していることが多い。第三者も同じ意見だから、やはり自分の考えは間違っていない、と確信を持ちたいから聞いてくるのだ。

しかし、その経営者が期待している答えがどのようなものかを分かっていながらも、意見を求められた場合には、自分の考えをハッキリと言うことにしている。たとえ自分の意見が、先方の期待している考えと異なっていたとしても率直に言う。それが問われた側の役割であり責任だと思うからだ。また、自分の存在意義がそこにあると信じているからでもある。

もし、自分の意に反するようなことを言われて気分を害するような経営者なら、しょせんそれだけの器にしか過ぎない。そんなことなら最初から他者に意見を求めなければ良いのだ、と割り切って臨むことにしている。

用意してあるもう一つの答えとは、すでに最終判断をしてしまった後で問われた場合の答え方である。役員会などに諮って正式に決断を下してしまった後では、いまさら異を唱えても仕方がない。だから、このような時には自分の見解はあえて述べずに、経営者が決めた方針で迷わずに突き進むようにといった内容の意見を述べることにしている。

ここで紹介している経営者の話しは、後者のケースである。そこで、決断した時点ではあらゆる要素を考えた上で、社長として最良の選択をしたはずなのだから、それがその時点におけるベストの決断だったのではないか。だから迷うことなくその方向で行けば良いでしょう、と答えた。

同時に、それを遂行していく中でそうではなかったと気づいたら、すぐに軌道修正すれば良いのではないか、とも付け加えたのである。

このように経営者は孤独であり、常に悩み続けている。しかし、たとえ一見、強面で自信を持って言い切る社長であっても、実は内面では迷ったり、悩んだりしているのだということを知っている人はほとんどいない。役員クラスでも、そのような社長の内面をほとんど知らないのである。

むしろ、外部の純粋な第三者である筆者の方が、経営者の悩みや人間的な弱さなどを知っている場合もある。

もちろん、それには人間的な信頼関係が前提になるが、孤独な一面を素直に見せてくれるからである。取材される側と取材する側という緊張関係はお互いに保ちながらも、気が置けない信頼関係があれば、取材に応じる時間は孤独感を紛らわせ、悩みの一端を話すことで、一時のカタルシスにもなるのだ。

時としては、第三者としての立場から観た、次期社長候補の評価などを問われることもある。このような話は、社内の人間には絶対にできない。いかに経営者が孤独な存在で、常に迷い悩んでいるかが分かろうというものである。