物流への荷主担当者の関心は高まったが…


今年も残り1カ月になってしまった。この1年間のトラック運送業界をみると、何といっても宅配便への注目度が高まった1年と言える。また、「標準貨物自動車運送約款」の改正で「運賃」が明確に規定され、待機時間や荷役作業、諸作業に対する対価が約款上で明記された。待機時間では「貨物自動車運送事業輸送安全規則」の改正で車両総重量8t以上または最大積載量5t以上のトラックに荷待ち時間の乗務記録作成が義務づけられた。

このようにトラック運送業界と荷主の物流担当者の間では物流への関心が高まった。

日本経済新聞が「トラック運送、荷積みの対価は得られるか…政策現場を歩く」(10月15日=電子版)、「トラック物流危機、再編こそ生き残りの道…政策現場を歩く」(10月23日=電子版)といった記事を掲載していた。

10月15日づけの記事は、待機時間の長さなどを紹介し、改正標準約款によって待機時間料や各種の附帯作業料などが請求できるようになること。さらに荷主勧告などにも触れているが、どこまで浸透するかは不透明といった記事である。

10月23日づけは、規制緩和でトラック運送事業者は約4万社から6万2000社に増加(ただしここ10年はほぼ横ばい)。だが、この間に業務の効率化や労働時間管理などを進めてきた事業者はごく一部に過ぎず、大部分の事業者は過当競争の中で人件費を度外視した安値受注などの状態にある。そこで国交省は悪質事業者や荷主を取り締まり、トラック運送事業者の再編成・集約化を進める考えだという内容だ。

いずれにしても最近は、業界紙以外でも少しは物流を取材するようになってきた。9月に札幌である業界団体が講演やパネルディスカッションを行ったが、翌日(9月16日)の北海道新聞が総合面で取り上げた。タイトルは「変わる物流・トラック業界巡る人手不足など議論」で、ディスカッションの写真と2人のパネリストの発言要旨を紹介した。

その数日後に道新の経済部の記者から筆者に電話があり、「変わる物流」のテーマで継続的に追いかけていきたい、という話だった。

このように一般紙なども物流を取り上げるようになりつつある。とくに宅配便の値上げやサービスの見直しなどの動きが活発化したために、この1年間は、宅配便事業者の動向についてマスコミがしばしば取り上げてきた。

そこで、トラック運送業界の関係者の中には「最近は物流への関心が高まってきた」とか「今ほど物流が注目されたことは過去になかった」といったことを口にするようになってきた。だが、本当にそうだろうか? 水をさすようだが、はなはだ疑問だ。

先述のように物流をマスコミが取り上げるようになってきたのは事実だ。しかし、それが必ずしも物流に対する一般の人たちの関心の高まりを反映していることにはならない。

荷主の担当者などには、ドライバー不足の中でどのように輸送体制を維持するかといった懸念がある。トラック不足で販売先に荷物を確実に届けられなければ大問題になってしまう。同時に、サービスの供給量が制限されるようになれば、必然的に運賃が上がることになる。物流担当者としては物流コストの上昇はできるだけ抑えなければならない。このように荷主の担当者の関心は高まっているが、荷主担当者も広い意味では物流業界関係者だ。

一方、トラック運送業界では労働時間短縮が大きな課題で、賃金を下げずに時短を進めるには原資の確保が不可欠。そこで厚労省や国交省がバックアップしているが、行政によるこれほどの援護はかつてなかった。

そのため業界人の多くは物流に対する一般の人の関心が高まっていると錯覚している。

だが、現実はそうではない。一般の人たちの関心は「宅配便」なのである。とくに「ネット通販」がらみの「宅配便」には非常に高い関心を示す。それに対して、物流一般に関しては一般の人たちの関心は依然として低いのが実態だ。それはオンラインの記事への反応などを見ると良く分かる。そのような現実を踏まえて、一般の人たちの物流への関心を引くにはどうすべきか。業界は戦略的に考えなければならない。