はじめに

2020年8月、国土交通省は自動車運送事業者の「働きやすい職場認証制度」を創設しました。

2020年8月、国土交通省は、自動車運送事業者の「働きやすい職場認証制度」を創設しました。働きやすい職場認証制度は、以前はホワイト経営認証制度と呼ばれていたもので、正式名称は、運転者職場環境良好度認証制度です。働きやすい職場認証制度は本認証制度の愛称です。働きやすい職場認証制度では、運転者の労働条件や労働環境に関して評価・認証し、求職者へ情報提供を行うための制度です。認証項目の達成状況によって「一つ星」「二つ星」「三つ星」の3つの認証段階が設けられており、制度創設初年度である2020年度は「一つ星」に限定した認証申請の受付が始まりました。働きやすい職場認証制度は、一般財団法人日本海事協会が、国土交通省より認証実施団体として選定をされています。申請の受付や審査、登録証書の発行といった認証に関する実務は日本海事協会において進められます。


認証制度の創設を受けて、各都道府県トラック協会や損害保険会社などが主催する働きやすい職場認証制度に関連するセミナーが実施されています。また、報道でも取り上げられている制度でもあるため、認証制度が創設された背景や認証手続きの概要については、ご存知の方が多いのではないでしょうか。本記事では、認証申請の実務にフォーカスしてお伝えしていきます。

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働きやすい職場認証制度の申請対象となる事業者

働きやすい職場認証制度の申請対象となる事業者はトラック運送事業者、バス事業者、タクシー事業者

働きやすい職場認証制度は、上記3つの自動車運送事業者が該当になります。とはいえ、全ての事業者が認証申請をできるのものではなく、最低限、以下の条件に合致している必要があります。

運送事業の事業許可取得後3年以上経過していること(事業許可取得後3年以上経過していない場合であっても、企業クループの再編等で事業許可取得後3年以上経過している事業者の就業規則等を承継して運送事業を行っている場合等の特別な理由がある場合は申請可能な場合があります)


労働基準関係法令違反に係る厚生労働省及び都道府県労働局の公表事案として同省等のホームページに掲載されていないこと。


労働基準関係法令の違反で送検されていないこと。または、送検されたが不起訴処分又は無罪となっていること。


使用者によって不当労働行為が行われたとして都道府県労働委員会又は中央労働委員会から救済命令等を受けていないこと。または、中央労働委員会による再審査又は取消訴訟により、救済命令等の取消が確定していること。


道路運送法、貨物自動車運送事業法等に基づく行政処分の違反点数が20点を超えていないこと。


認証申請の対象営業所について、トラック・タクシー事業者の場合は月の拘束時間、バス事業者の場合は4週間を平均した1週間当たりの拘束時間又は休日労働の限度違反に対する道路運送法、貨物自動車運送事業法等に基づく行政処分による累積違反点数が5点を超えていないこと。


認証申請の対象営業所について、社会保険等加入義務違反に対する行政処分による違反点数を受けていないこと。


認証申請の対象営業所について、最低賃金法違反に対する行政処分による違反点数を受けていないこと。


働きやすい職場認証は、日本海事協会で申請頂けます。詳細は下記ページをご覧ください。

働きやすい職場認証制度の申請単位

働きやすい職場認証制度の申請単位

事業者(法人)単位となりますが、複数の都道府県に営業所を有する事業者は、申請負担の軽減を図るため、事業者の選択により都道府県単位での申請も可能です(例:○○県内の全ての営業所)。

働きやすい職場認証は、日本海事協会で申請頂けます。詳細は下記ページをご覧ください。

働きやすい職場認証制度の項目と参考項目

働きやすい職場認証制度の項目と参考項目

認証項目は合否を判定する項目であり、以下の5分野が定められています。

対策分野 認証項目
A 法令遵守等 9項目
B 労働時間・休日 3項目
C 心身の健康 4項目
D 安心・安定 トラック8項目、バス8項目、タクシー10項目
E 多様な人材の確保・育成 1項目

認証項目とは別に、将来の「二つ星」「三つ星」の取得に向けた目安となる参考項目が定められています。参考項目は加点方式で参考点が加点されますが、参考項目の点数は「一つ星」の合否には影響しません。認証項目・参考項目の内容は、働きやすい職場認証制度の申請案内書に詳しく記載されています。申請案内書は下記ページよりダウンロード頂けます。


働きやすい職場認証は、日本海事協会で申請頂けます。詳細は下記ページをご覧ください。

働きやすい職場認証制度の提出書類と保管書類

働きやすい職場認証制度の提出書類と保管書類

事業者が認証項目の基準を満たしていることの証明は書類で行います。この証明書類は、「提出書類」と「保管書類」の2つに分かれます。提出書類は、認証申請の際、審査申込書(様式A)・営業所一覧(様式B)・自認書(様式C)と一緒に提出する下記の書類です。

1.就業規則の写し(10人未満の事業所は労働基準監督署の印は不要)


2.36協定の写し


3.労働条件通知書の写し


4.安全委員会、衛生委員会等の各委員会構成員一覧又は、議事次第や議事録の写し


5.営業所毎に様式第6号(労働安全衛生規則第52条関係)で規定する直近1回分の定期健康診断結果報告書の写し(50人未満の事業所は提出不要)


行政処分の違反点数を受けている場合は、上記の1.~5.の他に、違反に関する是正措置が適切に実施(または計画)されていることが確認できる書類(事業改善報告書等)の写しを認証申請時に提出します。保管書類は、認証項目の基準を満たしていることの証明に使う書類のうち、認証取得後に行われる対面審査に備えて準備し、事業所で保管する書類です。就業規則の本紙や健康診断の記録などがそれに該当します。対面審査の対象となる事業者は認証を取得した全ての事業者ではなく、審査委員会が抽出した事業者に対して行われるものです。

働きやすい職場認証は、日本海事協会で申請頂けます。詳細は下記ページをご覧ください。

働きやすい職場認証制度取得までの流れ

働きやすい職場認証制度取得までの流れ

申請書類の提出方法は紙申請と電子申請がありますが、電子申請を選択すると審査料の割引を受けることができます。流れは下記の通りになります。

① 審査の申請(申請受付期間:2020年9月16日~12月15日)

② 審査料の支払い

③ 審査

④ 審査結果の通知(2021年3月1日頃を予定)

⑤ 登録料の振込み

⑥ 登録証書の受領、ホームページ上での公開(2021年5月20日頃を予定)

⑦ 認証申請の対象営業所について、社会保険等加入義務違反に対する行政処分による違反点数を受けていないこと。

⑧ 認証申請の対象営業所について、最低賃金法違反に対する行政処分による違反点数を受けていないこと。

※登録証書の有効期限は登録証書発行日から2023年6月30日まで


働きやすい職場認証は、日本海事協会で申請頂けます。詳細は下記ページをご覧ください。

働きやすい職場認証制度の取得にかかる費用

働きやすい職場認証制度の取得にかかる費用

認証取得の費用には、審査料と登録料の2つがあります。営業所を複数設置されている事業者の場合は、営業所毎の加算もあります。

申請費用
1.審査料
(+複数の営業所を申請対象とする場合)
50,000円/紙申請の場合
30,000円/電子申請の場合
(+3,000円×営業所数※本社除く)
2.登録料
(+複数の営業所を申請対象とする場合)
60,000円
(+5,000円×営業所数(本社除く))

働きやすい職場認証は、日本海事協会で申請頂けます。詳細は下記ページをご覧ください。


さいごに

働きやすい職場認証制度は、国土交通省での検討会で示されていた認証項目と比較すると大幅に内容が改善され、多くの事業者が認証申請に取り組みやすくなりました。これまで運転者の労働環境改善のために投資を続けてこられた事業者にとっては、「一つ星」の取得はそこまで難しくないのではと思慮いたします。「一つ星」の認証を取得することは、自社の働きやすさや取組の状況を「見える化」することで運転者の採用活動を円滑に進めることができるとともに、取引先(荷主や旅行業者等)に対しても自社の状況を客観的に示すことができるようになるため、信頼性向上につながることになるのではないでしょうか。

著者情報

阪本 浩毅(さかもと ひろき)

行政書士法人シグマ 代表行政書士
一般社団法人運輸安全総研トラバス 代表理事

阪本 浩毅

大学を卒業後、大手旅行会社に就職。修学旅行などの教育旅行の企画・営業に従事。旅行会社在職中にコンプライアンスの重要性に気づき、法律家を目指すために退職。退職後は、都内の司法書士法人・行政書士法人にて、企業法務に従事する。行政書士開業後、個人事務所時代から一貫して、運輸業と観光業専門の行政書士として、数多くの一般貨物自動車運送事業・貨物利用運送事業・倉庫業・一般貸切旅客自動車運送事業に関する許認可法務に関与してきた経験を持つ。現在は行政書士法人シグマの代表として、士業法人の経営を行いながら、運輸業と観光業の許認可法務分野の実務家として活動中。