企業間格差が拡大している。経済のグローバル化と国内市場の縮小が進行する中で、経営環境や経営条件の変化に対応できる企業と、依然として従来通りの経営を継続している企業との差である。
企業間格差は、今後ますます拡大して行くであろう。これからも勝ち残って行くには、サイクルとしての景気動向に一喜一憂する以上に、トレンドとしての構造変化に対応することが重要なのである。
だが、このような将来ビジョンや企業戦略の問題以前に、企業経営には重要な要素がある。これまでも、現在も、そしてこれからも一貫して変わることのない、企業経営にとって必要なベーシックな要素である。
それは企業規模の大小に関わらず、また業種や業態の違いに関係なく、結局のところ会社は社長に行きつく、ということだ。つまり、良い会社かどうかは社長で決まってしまうのである。
これは役員や部課長などの管理職にも同じように当てはまる。良い営業所は所長で決まるし、良い部や良い課も同様に部長や課長次第と言っても過言ではない。
ところで、日本には多数の会社企業があり、トラック運送事業者数だけでも約6万2,000社である。つまり同業者だけでも6万2,000人の社長が存在していることになる。もちろん会社企業といっても企業規模はいろいろで、トラック運送業界でも売上高が1兆円を超える事業者もあれば、従業員が数人という小規模な事業者もある。また、同じトラック運送業といっても、実際の業務内容は多種多様だ。
だが、企業規模に関わらず社長には変わりない。同じ社長なのである。したがって、どんなに企業規模が違っても、また、運送事業の業務実態が異なっても、社長には共通認識あるいは共通する意識がある。
それは、自分の会社が現在のままで良いと思っている社長はいないということだ。社長は誰でも、いま以上に自分の会社を良くしたい、売上も利益も伸ばしたい、と思っている。その限りにおいては、6万2,000人の運送会社の社長が同じ気持ちでいることになる。
しかし、良い会社とそうでない会社の違いはどこから生じるのだろうか。良い会社は社長で決まるのだから、結局のところ、良い会社とそうでない会社の違いは社長の差ということになる。
これは一つの会社の中で、良い営業所とそうでない営業所、良い部課とそうでない部課の違いなども同様である。総てはその組織のトップ次第なのである。
このように総ては社長に行き着くという点を、経営者は肝に銘じておくことが重要だ。自社の組織や社員(部下)の欠点は、経営者自身の欠点の反映に他ならない。つまり、会社と社員の欠陥は、経営者自身の姿をそのまま映しだしているのである。
経営者や経営幹部、現場責任者クラス、現場で働いている人たちを長年にわたって取材していると、結局、社員は経営者の姿を等身大に映す鏡なのだと思えるようになってきた。
大切な取引先に商談に行く時には、何としてでも取引をまとめて契約にまでもちこみたい、と気持を引き締めて出かけるはずだ。精神的に決意するだけではなく、会社を出る前に鏡を見る経営者もいることだろう。その時、もしネクタイが曲がっていたら、そのまま出かける人はいない。誰でもネクタイをまっすぐに直すのではないか。スーツにゴミが着いていれば、当然、ゴミをとる。髪が乱れていれば、櫛で梳かすだろう。
自社の社員の姿は、鏡に映った経営者自身の姿なのだと考えれば、社員の欠陥などを嘆く前に、即座に正す行動を起こさなければと思うようになる。
社風とか、会社のカラーと言われるものがある。社風や企業カラーは良い意味で使われる場合もあれば、悪い意味で使われる場合もあるが、長年にわたって培われ形成されてきたその会社の体質と言ってもよい。
これは企業風土とも呼べるが、企業風土も結局のところ創業経営者、その後に続いた歴代の経営者たちの姿の反映の結果である。代々の経営者たちの姿が組織に反映され、社風や企業カラーを形成する。その組織に馴染んだ社員たちの言動や、商売の仕方などが、外部からは社風や企業カラーとしてイメージされるのである。
したがって、企業犯罪などの不祥事が生じるということは、その原因や直接の責任者がどうであれ、結局のところ責任は経営トップに行き着く。
このように企業経営者は、社員も企業風土も、自分自身の姿を等身大に映す鏡と認識することが重要である。
このように認識すると、組織上の問題点や社員の態度などの批判を口に出す前に、気づいたら即座に直そうとするはずだ。大切な取引先に行く前に、鏡をみてネクタイが曲がっていれば直すようにである。
その他にも、経営者が気づかない落とし穴はたくさんある。
筆者はペトロケミカル製品の市場や流通業界などを取材してきた。そして現在は、物流分野を専門に取材・執筆、講演活動などをしている。この間、実にたくさんの経営者に取材をしてきた。当シリーズは、これらの取材を通して自分なりに感得することができた「良い社長の条件」、反対に「良くない社長の条件」をまとめたものである。いわば、取材者の眼からみた「社長業」あるいは「経営者像」である。
ベースになっている具体的な素材の多くは、中小企業のオーナー経営者への取材を通して感じたことである。そこで、日本にある6万2,000のトラック運送事業者の圧倒的多数を占める中小企業のオーナー経営者を主な対象として述べることにする。
しかし、経営者としての心得はあらゆる業種や業態、企業規模の違いに関わらず共通する。この連載を読んで、いくつの項目に心当たりがあるかを考えていただきたい。
そして、どうも自分にも当てはまりそうだと気づいた項目があれば、誰にも言わずに密かに自己改革を試みることを提案する。すると、「最近、社長は変わった」と社内外の人から言われるようになるだろう。