この記事の要約

飲酒運転行政処分強化の前倒し実施と違反防止に向けた対策

飲酒運転に関する行政処分基準の改正が、2025年1月から2024年10月1日に前倒しされました。背景には、トラックドライバーによる飲酒運転死亡事故の増加があり、迅速な対応が求められたためです。新たな基準では、指導監督義務違反と点呼未実施に対する重い処分が追加され、初違反でそれぞれ100日車の車両停止処分が科されます。これにより、運送会社は初違反で最大300日車の車両停止処分を受ける可能性があります。

飲酒運転根絶のために運送会社が取るべき対策として、社員への教育、就業規則の見直し、長距離ドライバーの点呼とアルコールチェックの徹底、点呼後の飲酒防止、アルコール依存症の社員への注意が挙げられています。


第39号の本コラムで取りあげた飲酒運転行政処分基準の改正が、当初施行予定の2025年1月から2024年10月1日に繰り上がって施行されることが9月19日に国交省から発表されました。 改正施行日が3ヵ月早まった背景には、近時のトラックドライバーによる飲酒運転死亡事故発生等も踏まえ、 飲酒運転根絶に向けた取組をより迅速にして欲しいとの声が高まったことがあります。

第39号コラムで改正内容の概要を記述しましたとおり、今回の行政処分改正は従前の飲酒運転行政処分内容に加え、 新しく指導監督義務違反と点呼未実施に対して重い行政処分を追加しました。現行の行政処分基準は、 運送事業者に所属する運転者が飲酒運転を引き起こした場合、その事業者に対して初違反で車両停止100日車、 再違反で200日車の処分を科していますが、10月1日からは、「指導監督義務違反(新設)」と「点呼の実施違反(新設)」に対し、 初違反でそれぞれ100日車の車両停止処分を加算することになりました。これにより運送会社は初違反で300日車の車両停止処分を 科される可能性があります。

飲酒運転の根絶は従来から安全対策の一環で運送業界においても強力に推進されてきましたが、昨年はトラックの飲酒運転死亡事故が急増した結果、飲酒事故が減少傾向から上昇傾向に転換したことで危機感が高まっています。飲酒運転の根絶と行政処分強化に向けて運送会社が早急に取り組むべき対策は以下のとおりです。



  1. 飲酒が身体に与える影響を研修等で社員全員に周知し、飲酒運転の根絶を社内に徹底する・・・
    アルコールが体内から抜ける時間はアルコール1単位につき4時間という目安があります。アルコール1単位とはビールで500ml、日本酒で180ml、ウィスキーで60ml、ワインで200ml、チューハイで350ml、焼酎で100mlという目安があり、飲酒をする場合はアルコールの処理にかかる時間を理解したうえで、翌日の業務開始時刻から逆算して飲酒の量を決めるように指導することが必要です。
  2. 会社の就業規則や入社時の誓約書、人事考課表の評価項目、等に飲酒運転禁止の旨を盛り込み、根絶に向けた取組を評価する制度を社内に構築する・・・
    宣言書などで個別に飲酒運転禁止の宣言を実施して意識の高揚を図るとともに、点呼時の報告義務を明確にして飲酒運転防止体制を構築する必要があります。事務所の壁に飲酒運転根絶に関するポスターを掲示して常に意識を継続する環境整備を心がけることが大事です。
  3. 長距離ドライバーの点呼およびアルコールチェックの励行に特に注力する・・・
    飲酒運転は長距離運行により出先で宿泊する場合に発生しやすいことが分かっています。出先でアルコールチェックができるよう携帯型のアルコール検知器を使い、毎回確実に実施することが重要です。
  4. 点呼とアルコールチェックは出庫時刻の10分前に実施する・・・
    最近発生したトラックドライバーによる悪質な飲酒運転死亡事故の状況を見ると、点呼時のアルコールチェックでは全く検知されず、出庫後事故発生時の警察による検査でアルコールが検知されました。このことにより点呼後、出庫までの空き時間に飲酒したことが判明しています。点呼後、長時間休憩した後に出庫する勤務形態は出庫前の飲酒を誘発する危険があり、改善する必要があります。
  5. アルコール依存症の社員に特に注意する・・・
    アルコール依存症になると運行途中でも飲酒の誘惑に襲われ、習慣的に飲酒をしてしまう傾向があります。アルコール依存症が疑われる場合は普段から注意深く観察し、点呼時に顔色や呼気をチェックし、飲酒と睡眠の状況を聴取して乗務の可否を適切に判断しなければなりません。もしアルコール依存症が明らかであれば、運転業務以外の仕事に配転することを検討すべきです。