この記事の要約

トラック運送事業の賃金実態について

全日本トラック協会(全ト協)は定期的にトラック運送事業の賃金や労働時間、福利厚生の実態調査を行い、その結果を公表しています。

2023年度の調査によると、男性運転者の1ヵ月平均賃金は特別積み合わせ貨物運送業者(特積)で31.7万円、一般貨物運送業者(一般)で34.5万円となっています。女性運転者の1ヵ月平均賃金は特積で25.1万円、一般で29.2万円です。

地域別では近畿が最も高く、沖縄が最も低い賃金水準を示しています。特積より一般の方が賃金が高い傾向がありますが、年齢やサンプルの偏りが影響しています。

全ト協の調査は、運送業界の賃金実態を知る上で有益なデータを提供しており、定期的な確認をお勧めします。


全日本トラック協会(以下、全ト協)は定期的にトラック運送事業の賃金や労働時間、福利厚生等の実態調査を実施し、その結果を公表しています。全ト協は2024年9月13日に「2023年度版トラック運送事業の賃金・労働時間等の実態」を直近の調査結果として公表しました。

この調査は2023年5月から7月の間に支給された給与の1ヵ月平均額とその期間の労働時間等を調査したものです。 有効回答事業者数は特別積み合わせ貨物運送事業者(以下、特積)が33社、一般貨物自動車運送事業者(以下、一般)が642社で合計675社となっています。
調査票に回答のあったデータを回収して集計したもので、前年のサンプル数とは異なり、同条件で比較できるものではない為、時系列の変化を正確に捉えることはできませんが、一定の賃金傾向を探るうえでは大変参考になるものです。

この調査結果によると、男性運転者(けん引、大型、中型、準中型、普通)の1ヵ月平均賃金は、特積が31.7万円、一般が34.5万円となっています。また、1か月の平均賃金に年間賞与の1ヵ月平均額を加えると、特積が37.7万円、一般が38万円となっています。ちなみに女性運転者の1ヵ月平均賃金を見ると、特積が25.1万円、一般が29.2万円となっており、年間賞与の1ヵ月平均額を加えると、特積が29.8万円、一般が31.7万円となっています


これらの結果を見ると、特積より一般の賃金のほうが高くなっていますが、これは集計データによる平均年齢の違い(特積は男性47.6歳、女性40.1歳、一般は男性50歳、女性46歳)やサンプルの偏り等の影響もあり、一概に特積より一般の方が高いとは言えません。

また、運転者の1ヵ月平均賃金(年間賞与の1ヵ月平均額加算後)を地域別に見ると、北海道が40.4万円(平均年齢50.1歳)、東北が31.2万円(〃50.5歳)、関東が38.4万円(〃48.3歳)、北陸信越が37.3万円(〃48.8歳)、中部が39.2万円(〃49.5歳)、近畿が41.1万円(〃49.9歳)、中国が37.6万円(〃49.4歳)、四国が37.7万円(〃48.6歳)、九州が36.9万円(〃48.4歳)、沖縄が29.2万円(〃49.5歳)となっています。


これらの結果も平均年齢の違いを考慮して比較する必要があるため、単純に金額差を地域差として見ることはできませんが、各地域の賃金水準を見るうえでは参考になります。
全ト協の賃金実態調査は賃金水準の傾向を知るうえで参考になりますが、それだけではなく、賃金における固定給と変動給(歩合給や時間外手当等)の構成比の傾向を知る上でも参考になります。

業種・職種別賃金構成の調査結果によると、歩合給(運行手当等)や時間外手当などの変動給が1ヵ月平均賃金に占める比率は、特積の男性運転者が34.7%、女性運転者が28.5%であり、一般の男性運転者が46.9%、女性運転者が40.7%となっています。
特に変動給の比率が高いのは、一般のけん引49.7%、大型50.2%などであり、総じて一般の方が変動給の比率が高くなっています。

さらに変動給の内訳を見ると、歩合給と時間外手当の比率は男性運転者の特積が歩合給49.7%、時間外手当37.2%、その他13.1%となっており、一般では歩合給49.9%、時間外手当40.5%、その他9.6%となっています。
これにより歩合給が変動費の約半分を占めていることが分かります。私は運送業の経営コンサルティングで様々な運送会社を見ていますので、これらの調査結果の内容と中小運送会社の実態は多少相違があるのでは、と感じる部分もありますが、全ト協の賃金実態調査は運送業界における現状の賃金実態を知るためには数少ない貴重なデータです。

サンプル数の偏りや年齢構成の違い等を考慮して読み解く必要がありますが、皆さんも全ト協から定期的に公表される調査結果を、時間があるときにチェックしてみることをお勧めします。