普段あまり聞くことがない言葉だと思いますが、「標準貨物自動車運送約款」とは、荷主の正当な利益を保護し、事業者が適正に運賃や料金を収受できるよう、さまざまな事項が定められている約款の事です。

約款とは、同種の取引を迅速かつ効率的に行うために作成された、定型的な内容の取引条項のことです。大量の取引を行う場合、一つひとつに契約条件を定めて契約を締結していると、手間がかかってしまうため約款を作成することにより、スムーズな取引が可能です。個別に契約条件を取り決めていない取引については、約款で定めた内容が共通して適用されます。

運送会社は運送許可を得る際に、運送契約の内容を定めた運送約款を国交省に届け出て、国土交通大臣の認可を受けることが義務づけられています。ところが国交省が定めた標準運送約款を利用する会社の場合は認可を受ける必要がない為、多くの運送会社は会社独自の運送約款を作らず、国交省の標準運送約款を利用しています。



標準貨物自動車運送約款は、過去に何度か変更されてきましたが、2024年3月にも内容の一部が改正され、6月1日から新約款が施行されることになりました。今回の標準貨物自動車運送約款の改定内容は、

  • ①荷待ち・荷役作業等の運送以外のサービス内容の明確化
  • ②運賃・料金、付帯業務等を記載した書面の交付
  • ③利用運送を行う場合における実運送事業者の商号・名称等の荷送人への通知
  • ④中止手数料の金額等の見直し
  • ⑤運賃・料金等の店頭掲示事項のオンライン化、等が主な内容になります。

  • このうち上記①~③の改正が今後の運送業に大きい影響を与えるものと見込まれています。すなわち①の内容にある「運送以外のサービス」の対価を収受する規定については、契約に無いものを含めて運送以外の対価の対象とする点が重要です。


    運送に伴う「運賃」とは本来、「車上受け・車上渡し」を基本とする金額であり、積込や積み降ろし等の作業の対価は運賃に含まれておらず、別に収受する必要があるのですが、運送業界では従来からサービスとしてドライバーが作業するケースが大半でした。
    またそれが当たり前になっているため、運送契約の中にも積込作業料等が明記されていませんでした。今回の標準運送約款改定により、別に収受する旨が契約上で明確になったことになります。


    また②の内容にある「運送引き受け時等に書面での交付」を義務づける点については、現在、電話等口頭での依頼により運送委託を行う荷主や元請が存在しますが、今後は運送委託の都度、明確な書面の相互交付が義務付けられるため、業務内容が明確になることを期待されています。


    そして③の内容にある「利用運送を行う場合は実運送事業者の商号名称等を荷送人に通知する」という点は、多重下請け構造の是正に寄与するものと期待されています。従来、荷主から運送を委託された元請事業者が実運送会社に二次下請け、三次下請けと多段階に委託することで、その都度、利用運送手数料が引かれ、下請けになるほど運賃が低下するケースがありました。今後、実際に貨物を運んだ会社名を荷主に通知することになると、多重下請は減少するでしょう。


    このように標準貨物自動車運送約款の改正はこれからの運送業の経営にプラスに作用するものと期待されているわけですが、このことは運送会社で働くトラックドライバーにとっても同様にプラスの効果が期待されます。


    運賃と料金が別建てで収受できるようになれば、一運行に係る売上が増加し、ドライバーの賃金アップに反映されるでしょう。また従来サービスで行っていた積込や積み降ろし作業や長時間の待機などが減少することになるでしょう。また作業が機械化されて負荷が軽減されることも期待できます。


    今回の標準貨物自動車運送約款の改正はもともとトラックドライバーの労働条件改善を意図して行われるため、今後その効果が十分に発揮されてトラックドライバーの労働環境が向上することを期待したいと思います。