長い間荷主に抑圧されてきた運送業界において最近の一年間に起こった大きな変化は、「これから運送業界が面白くなってくる」と予感させる状況になっています。 今から30年以上前、時代が昭和から平成に移行する頃までの運送業はまだ好景気の余韻が残り、稼げる仕事がたくさんあり、ドライバーの給与も高く魅力のある業界の一つでした。
ところがその後、物流2法と呼ばれる「貨物自動車運送事業法」と「貨物運送取扱事業法」が1989年(平成元年)に成立し、翌1990年に施行されて以降は全く様変わりの状況になってしまいました。規制緩和により事業が免許制から許可制に変わり、運賃も認可運賃から届け出運賃に変更されました。
これにより日本の運送事業者数が4万社から6万社へと1.5倍に急増し、折からの不景気が重なった為、運送業の収益環境が急速に悪化していきました。
それから長く続く「荷不足・人余り」の運送業暗黒時代が始まったのです。その後20年以上にわたり続いた暗黒時代の間に仕事上の力関係は荷主のほうが圧倒的に強くなり、運送業は典型的な荷主隷属型業種となりました。荷主に言われた運賃で運ぶことが常識となり、運送コストは度外視して仕事を確保することが当たり前となっていました。 運送会社側から運賃の値上げ交渉など少しでも口に出せば、すぐに取引を切られて他の運送会社に変えられるという時代が長く続いたのです。
運送業界では荷主が絶対的存在でしたが、その関係性が一昨年の暮あたりから徐々に変化するようになりました。運送会社側から荷主に申し出を行うケースが増えてきたのです。その契機となったのは2024年問題です。
働き方改革の一環としてドライバーの長時間労働を是正する目的で改正された法律ですが、当初政府が想定していた以上に物流に対する影響が甚大であり、このまま法改正が行われると日本の経済自体に悪影響が出ることが判明したのです。
政府は慌てて荷主側に対する規制を強めるようになりました。悪質な荷主に対して公正取引委員会や経済産業省による社名公表が行われ、荷主の一方的な都合による待機時間や取引価格の据え置きなどを取り締まるようになりました。従来、国土交通省が運送業を守るために「荷主勧告制度」を制定し運用していましたが、その実態は有名無実であり、勧告を受ける荷主は皆無でした。
ところが2023年以降政府全体で取り組む体制が出来て、荷主に「働き掛け」や「要請」を頻繁に出すようになり、最近は「勧告」を受ける荷主も出てきました。これらの急激な変化は荷主の意識に危機感を生じさせ、運送会社の運賃見直し要求にも積極的に応じる荷主が増加してきたのです。この流れは2023年の一年間に全国に波及しつつあり、2024年の年明け以降は運賃交渉が非常にやりやすい状況になっています。
30年振りに運送業の力関係が上向いてきたことを実感しています。このさき人手不足がさらに進めば、運賃の改善は必至であり、運賃が改善されればドライバーの給与水準が上向くことは確実です。2024年問題は運送業界にとって大きな「逆風」と認識されてきましたが、一方で運送業の地位改善や運賃等の取引条件改善に向けて「順風」になっていることも事実です。
今後DX推進による効率化や自動運転、ドローン等の活用が進めば、運送業界の地位が向上し、またかつてのような活況が戻ることも予想されます。ようやく「物流」の社会的存在意義に見合う運送業の地位向上が果たされる気運が見えてきました。