トラック運送業界の歴史の変遷を振り返り、近い未来の姿を予測したいと思います。
①トラック輸送の創成期 (戦前から戦時中)
戦前は鉄道が貨物輸送の中心であり、トラック輸送は駅から先の輸送を一部担う「小運送」と呼ばれる存在でした。
明治時代後半に入り、一部の事業者が貨物運送会社を創業したあたりからトラック輸送が徐々に増え始めました。
昭和時代に入ると1930年代に自動車交通事業法や日本通運株式会社法などの法制化が行われ、トラック輸送が増加しました。
②トラック輸送の拡大期 (戦後(1945年以降)~1970年代半ば)
終戦後の日本は道路が未整備で、トラック輸送に適しない道路事情でした。 ところが戦後の復興の過程で道路整備が順調に進み、1955年頃から急速にインフラ整備が進展するようになりました。その大きな契機になったのは1964年の東京オリンピックや1970年の大阪万国博覧会です。
1960年代には名神高速道路や東名高速道路が開通しました。これにより長距離定期便トラックの運行が始まり、同時期に高度成長時代を迎えて日本経済が活況を呈するようになった為、トラック輸送が大幅に増加しました。
③急拡大の時代から低成長の時代へ (1970年~1989年頃)
日本の高度経済成長の流れに乗り、拡大してきたトラック運送業ですが、1971年のニクソンショックや1973年の第一次石油ショックによって成長に急ブレーキがかかるようになりました。
④荷不足低運賃の過当競争と環境規制の時代へ (1990年~2010年頃)
1990年に物流二法が施行され、運送業が免許制から許可制に変わり、運送業界は自由化の波に飲み込まれました。4万社だった事業者数が6万社に増加し、過当競争と経済の停滞が重なったことから深刻な荷不足低運賃の時代が長く続くことになりました。
また2000年前後から環境規制が厳しくなり、ディーゼル車の走行規制が始まり、自動車NOX・PM法が成立しました。トラック運送業は売上低迷と環境費用等のコスト高で経営の維持に大変苦労する時代になりました。
⑤人材不足と働き方改革(労働時間規制)の時代へ (2010頃~現在)
2010年代から2020年代にはいるとドライバー人材の確保が一段と困難になってきました。また働き方改革に伴い、時間外労働の上限規制が始まり、運送業界は新たな時代に入ることになりました。
一方、AIの進展に伴い、ビジネスモデルの変革が求められるようになり、物流DX(デジタルトランスフォーメーション)や物流GX(グリーントランスフォーメーション)などの取組が始まるようになりました。
⑥運送業界の未来
運送業界のこれまでの歩みから今後10年以内に予測される未来の姿を予測すると以下のとおりと考えられます。
・カーボンニュートラルに向けた車両の開発が進み、大型トラックを含む全車種でディーゼル車から電動車への置き換えが進む
・自動運転が実証実験段階から本格運用段階に入り、幹線輸送の大半は自動運転トラックに置き換わることになる
・自動倉庫から出荷し、自動運転トラックで物流センターに運んだ後、センターからドローン輸送または自動配送ロボット等による戸別配送を行う輸送体制が実現され、物流の全行程で自動化が急速に進展する
・動態管理や配車管理等の運行管理システムや受発注システムの大半がAIにより自動で行われるようになり、物流の安全性や正確性、および効率化が急速に進展する
・物流DXの進展により、運行管理者やドライバーの必要数が減少し、人材不足の解消が徐々に進む
・運送業界で企業の淘汰が急速に進み、勝ち残った会社による寡占化の懸念が生ずる
(あくまでも筆者の私見です。)