先日の2023年6月2日に政府から発表された「物流革新に向けた政策パッケージ」の中で、「商慣行の見直し」の一環として運賃・料金が消費者向けの送料に適正に転嫁・反映されるべきという観点から「送料無料」表示の見直しに取り組むことが明記されました。これにより今後「送料無料」の表示はなくなっていくものと思います。

送料無料の普及理由

ところで、今やオンラインショッピング等で当たり前のように導入されている「送料無料」はなぜこれほどまでに普及してきたのでしょうか。「送料無料」が普及してきた理由としては先ず企業のマーケティング戦略があります。小売業界の競争は激化しており、多くの企業がオンラインを使った販売戦略を取り入れています。その中で自社の商品を購入してもらうためにはより魅力的に見せて購買のハードルを下げる必要がありました。また、同時に複数の商品を買ってもらい購買金額を増やすためにも「送料無料」の表示が効果的だったのです。

また、消費者にとっても商品価格以外に追加の費用が掛からなければ、気軽にオンラインショッピングを楽しむことができ利便性がありました。またウェブサイト側でも他のショッピングサイトとの差別化を図り、サイト自体の魅力を高めて、リピート購入を増やすことができウェブサイトのブランド力を高める効果がありました。「送料無料」は売る側と買う側、および商品情報を提供する側の全てにメリットがある仕組みとして広く普及してきたのです。

送料無料の影響

一方、運送業界には必ずしも良い影響を与えたとは言えませんでした。もちろん消費者の購買力が上昇することにより、需要が高まり、輸送量が増加して企業収益が向上するという利点は確かにありました。コロナの影響による巣籠り需要もあり、急速に宅配関連事業者の業績が上昇した背景には「送料無料」により消費が喚起された影響も否定できません。

しかしながら、「送料無料」により少額商品を気軽に買えることから、頻繁に小口商品を購入する消費者が増加し、輸送取扱件数が急増した結果、運送業の現場に大変な疲弊感をもたらすようになってきました。また、消費者は「送料無料」が当たり前になると、同時に迅速な配送を期待するようになり、利便性の高い当日・翌日配送を提供するサイトで購買する傾向が出てきました。このことがさらに運送業の現場を多忙にしました。

運送業界は荷主や消費者の欲求に対応するため、配送ネットワークの再構築に努め、自動化・効率化した物流センターを建設し運営するなど企業努力を重ねてきました。しかし、現場で働くドライバーの労働実態は既にぎりぎりの状況になり、非効率な「再配達」を削減しない限り、このまま増加し続ける需要に対応することが困難な状況に至っています。

送料無料の将来像

それでは「送料無料」は今後どのように推移し、将来的にはどのような形になるのでしょうか。冒頭に前述したとおり、最近政府の方針が明示されたことにより、「送料無料」は今後表記されなくなるでしょう。これから規制内容の詳細が明らかになってくると思いますが、少なくとも「送料無料」の表現は廃止され、「送料は弊社(販売者)が負担します」等の表現に変わるでしょう。また、送料企業負担の基準に一定の条件が盛り込まれることになるでしょう。例えば、最低購入金額(もしくは購入件数)の設定、特定の高額商品に限定、あるいは特定会員だけに限定なども考えられます。2024年問題を契機に旧来の物流システムの見直しが急速に進む見込みであり、改善の過程で適正な運賃の収受が進んでいくものと思います。