ブラック企業問題が社会問題となって早数年、各業界で「働き方改革」が進んでいます。運送業界も例外でなく、働き方改革が行われています。今回は、運送業界で進んでいる働き方改革について詳細を解説していきます。

<目次>


運送業界で進む働き方改革とは?

2019年4月より、労働基準法が改正され、年720時を上限とした時間外労働の規制がスタートしました。中小企業に関しては、1年間の猶予が与えられ、2020年4月から適用されます。

ただ、運送業界のドライバーに対する規制は「5年間」の猶予が与えられ、2024年4月から「960時間」を上限とした規制がスタートします。トラックドライバーの場合、運送時間がかかるため、他業種よりも拘束時間が長くなってしまうため、上限が高く設定されています。加えて、AmazonなどのECサイトの発達により、運送業は慢性的な人手不足となっているため、適用開始年度にも猶予が与えられました。

ただ、あと4年後には中小の運送業者を含めて、労働時間の上限設定が適用されるので、多少なりともドライバーの労働環境は改善されると想定されます。

また、大手運送会社はすでに労働時間の短縮に取り掛かっており、労働環境の改善に向けて動き出しています。


全日本トラック業界が
「働き方改革実現に向けた
アクションプラン」を策定

運送業の業界団体である全日本トラック業界は、政府が実施する働き方改革を運送業で実現させるために、「働き方改革実現に向けたアクションプラン」を策定しました。他業種と比べて、労働時間が長く、賃金も1~2割ほど低いと言われている運送業界の課題を解決することで、職業としての魅力を上げて、人手不足を改善することが狙いです。具体的な取り組みは、

となります。

それぞれ詳細を見ていきましょう。

労働生産性の向上

運送業が長時間労働となっている要因は、「荷物の受け渡しの待ち時間」など、業界特有の時間ロスが挙げられます。この受け渡し時間を短縮するだけでも、トラックドライバーの労働時間は大きく削減できます。受け渡し時間の短縮のために、「荷受アシスト機器の活用、導入の助成」「物流に配慮した都市内インフラの整備」などを要望として、政府や業界関係者に向けて提言しています。

運送事業者の経営改善

運送業で人手不足が起こっている要因として、「ドライバーの待遇の悪さ」が挙げられます。「賃金水準が低い」「週休が1日しかとれない」「有給取得が困難」など、他業種と比べて条件が悪いため、なかなか人材が集まらない状態になっています。これを改善するために、運送事業者が率先して経営改善を行い、ドライバーの働く環境を整備していくことを求めています。

適正取引の推進

ドライバーの賃金が他業種と比べて低い要因として、「元請け・下請け企業の間で適正な原価設定ができていない」点が挙げられます。特に、下請けの運送業者になると、業者が利益を得るために、人件費を削減する傾向にあります。下請け企業が、低い原価で受注することを防ぐために、元請け企業と下請け企業との間で、適正な原価を設定することを協会は提言しています。

多様な人材の確保、育成

運送業というと、これまでは「男性の職業」というイメージが強かったですが、近年は女性のドライバーも徐々に増えてきています。女性ドライバーが更に増えていくために、「男女別ロッカーの設置」「短時間勤務が可能な業務の創出」「ワークライフバランスの推進」などを目標として掲げています。


運送業の働き方改革が
裏目に出てる?

運送業の働き方改革は、今後も進んでいくことが想定されますが、働き方改革が返って裏目に出るのではないかという懸念もでてきています。

たとえば、大手の運送業者はすでに労働時間の削減に取り組んでいますが、この結果、残業時間が大幅に減ることになり、結果としてドライバーの年収が減ってしまうことが挙げられます。「残業で稼ぐ」という業態が運送業界では定着してしまっているため、単純に労働時間を減らすだけでは、豊かな暮らしができないのです。

年収が目減りしてしまったため、副業に取り組まざるをえず、結果として総労働時間にそこまで変化ないという結果になりかねません。真の意味で、運送業の働き方改革を成功させるためには「残業に依存しないドライバーの賃上げ」を実現しなくてはならないのです。

運送業者が、ドライバーの賃上げを実現することができれば、自ずと人手不足も解消してくると想定されますが、現状ではドライバーの基本給が高くなるといった流れはありません。この問題に正面から向き合う運送業者がでてこないと、運送業の働き方改革は中途半端な結果に終わってしまうでしょう。


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