- この記事の要約
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飲酒運転に係る行政処分が1月から強化される理由とは
2024年7月、国土交通省は来年1月から飲酒運転に関する処分を厳しくすることを発表しました。現在、運転手が飲酒運転をすると、会社は初めての違反で100日間トラックを使えなくなります。再違反では200日間です。
来年1月からは、新たに「指導監督義務違反」と「点呼の実施違反」が追加されます。これにより、運転手が飲酒運転をした場合、会社は最大300日間トラックを使えなくなる可能性があります。
この強化の理由は、飲酒運転による事故が2023年に急増したためです。特に夜間や早朝の時間帯に事故が集中し、長距離トラックが多く関わっています。また、多くの事故で会社が適切な指導や点呼を行っていなかったことが問題とされました。
今回の処分強化は、悪質な運送会社を排除するための政策の一環です。政府は、こうした会社に対して厳しく対処する方針を打ち出しています。
国土交通省は2024年7月に、来年の1月から飲酒運転に係る自動車運送事業者に対する行政処分の基準を大幅に強化する改正案を発表しました。現行の行政処分基準は、トラック、バス、タクシー等の事業者に所属する運転者が酒酔い、酒気帯び等の飲酒運転を引き起こした場合、その事業者に対して初違反で車両停止100日車(例:一台のトラックを100日間使用停止にする等)、再違反で200日車の処分を科しています。
来年1月からは、この処分に加えて、「指導監督義務違反(新設)」と「点呼の実施違反(新設)」に対し、初違反でそれぞれ100日車の車両停止処分を加算する見込みです。これにより来年1月以降、運送会社に所属する運転者が飲酒運転をすると(事故を起こしていなくても)、運送会社は初違反で300日車の車両停止処分を科される可能性があることになります。
今回新設された「指導監督義務違反」とは、酒酔いや酒気帯び運行が行われた場合において、飲酒が身体に与える影響に関する指導や飲酒運転・酒気帯び運転の禁止に係る指導が実施されていなかった場合に科される行政処分です。一方、「点呼の実施違反」とは、飲酒運転が発覚した当日に点呼を行っていなかった場合に科される行政処分です。
これらの行政処分強化は運転者を雇用する運送会社に対する処分であり、飲酒運転を引き起こした本人に対する処分強化ではありません。皆さん御存知のとおり、現在、飲酒運転を引き起こした本人に対しては、重い刑事罰等が科されています。道路交通法により酒酔い運転には5年以下の懲役又は100万円以下の罰金が適用になり、さらに違反点数35点を付されて免許取消し処分(3年間は再取得が不可)が科されます。
また酒気帯び運転には3年以下の懲役又は50万円以下の罰金が適用になり、呼気1.25mg/L以上の場合は免許取消し処分、呼気0.15以上1.25mg/Lの場合は免許停止90日間の処分が科されます。また飲酒運転により人身事故を発生させた者に対しては、自動車運転死傷行為処罰法により「危険運転致死傷罪」で死亡事故の場合に20年以下の懲役となり、負傷事故の場合に15年以下の懲役となります。
「過失運転致死傷罪」では7年以下の懲役もしくは禁固、又は100万円以下の罰金が科されます。飲酒運転を引き起こした本人は重い刑事罰や免許取消し等の行政処分を受けると同時に、就業規則による懲戒処分で会社からの離職を余儀なくされるでしょう。相当な社会的制裁を受けることになります。
では今回、本人ではなく、所属する運送会社に対する行政処分を強化する改正案を発表した理由は何でしょうか。それは行政処分強化に至る背景を知るとわかります。例えばトラック運送業における飲酒運転人身事故発生件数をみると、2019年から2022年まで、年間発生件数28件、22件、14件、6件と毎年順調に減少してきたにもかかわらず、2022年の6件から翌年の2023年には23件と約4倍に急増したのです。
飲酒運転発生時刻は夕刻18時から翌朝6時の間に集中しており、飲酒運転事故の7割超を大型トラックが占め、その過半数のケースが他県を運行中の長距離トラックなのです。また飲酒運転発覚時、点呼を実施していなかった件数が相当数あり、会社の指導や点呼等の管理体制に問題があることが判明したのです。
政府は2023年6月に「物流革新に向けた政策パッケージ」を発表して、発着荷主や元請に対する規制を強化する旨を決定しましたが、一方で、法令遵守を怠る悪質な運送事業者に対する監査体制の強化を同時に決めました。今回の行政処分強化は悪質な運送事業者の排除に向けた政策の一環と言うことが出来ます。