第12回 ブラック・パンサー


第12回 ブラック・パンサー

ドライバー求人サイト、ドラEVERをご覧の皆様こんにちは。或いは、こんばんは。
窓辺のマーガレット、キョウキ・カンバーバッチです。

さて3月でございますが、この時期は皆様、出会いや別れいろいろありそうです。でも、よくよく考えてみたらドライバーの皆様はお荷物を渡す時など、絶えず出会いと別れを繰り返す、そんな一期一会のご職業なんですよね。

 何だかそう考えると、日々会社へ向かう途中すれ違う人だとか、まったく喋った事はないのですけど、そういうすれ違いみたいな小さな出会いと別れを人は毎日している訳で、それは映画もそうなんですよね。良い映画に出会える事もそうですし、自分にとって絶妙のタイミングで「今観たからこそグッときた!」というような事もあって、総てはめぐり合わせ。

 ちょっと脱線しますが、大人になると「時間を無駄にしたくないから面白くない映画、駄作は避けたい。観たくない」って考える人増えてくると思うんです。確かに観て最高に面白くなかったら、それはちょっと嫌な事ではあるんですけど、時間がもったいないからこそ、楽しんでみる、っていうのも一つ重要な事ではないかと思うのです。

 無理して良いところを探す、という事ではなく面白くない事を楽しめるようになると、映画はすごく楽しい。ちょっとしたコツで全然見方は変わっちゃうんです。本当に不思議なんですけど、映画ってもの凄く多くの人の手が加わって一つの作品になる。それなのに面白くない映画ができちゃうんです。もうそれがちょっと面白くないですか? まぁ、それはちょっと穿った見方ですけど、ダメな映画だけど一人だけ気を吐いてる役者さんがいたりするのを見つけてみたりとか、今みたいなシーンは好きだな、とか些細な所を楽しめたりするだけで全然違います。

 同じ2時間なら、楽しんだ方が良いに決まってるんですから。

 さて今回は『ブラックパンサー』の感想を予告通り書きますね。

 映画を観終わった後、こういう感想文を書くに当たって、ちょっと世間の声を観てみようかしらと思ってネットで『ブラックパンサー』の感想を調べてみたんです。もちろん、映画を観てすぐ感想は思い付いているので、よそ様の感想を読んだからと言って僕の感想が変わる事はありませんので、その辺はご安心ください。

 まー、それで感想を読んで思ったんですけど、「あー、皆さん楽しむのがうまくないなぁ」って思ってしまいました。

 僕が「これはすごいぞ」と思った部分、ことごとく皆様、楽しめてないんですね。

 『ブラックパンサー』は出演者のほとんどが黒人の映画です。しかも、アメリカンなヒップホップ系のクールな黒人が登場する映画ではありません。アフリカンな黒人の登場する映画です。TVCMでラップを使用していましたが、そういうのは一切出てきません。観終わって私はあのCMに憤慨してしまいました。

「黒人のイメージがヒップホップだけだと思ってるなら馬鹿にしてる!」

 『ブラックパンサー』は黒人のもう一つの側面を描いています。自然豊かな大地で生まれた、強靭な肉体を持った逞しい人々である事。そういったところを存分に表現したアメコミヒーローなんてまったくなく、もの凄く新しい。そして、とてつもなく意義のある事です。

 アメコミヒーローに限るなら黒人を扱った作品に『ブレイド』シリーズがあります。僕は『ブレイド2』を生涯のベスト10に入れる程浸透している大好きなシリーズですが、こちらはもろに現代アメリカ黒人のメタファーとしてブレイドは存在します。

 主人公のブレイドは、デイ・ウォーカーと呼ばれる人間と吸血鬼の混血。血への渇きを血清で打ち消しながら日々ヴァンパイア狩りをしています。人間でもない、吸血鬼でもない宿命を背負ったブレイドの姿には、迫害を受けて来た黒人の姿が、そしてその強さには彼らの持つ怒りが重なります。敵対する吸血鬼は大抵白人として描かれますしね。

 アメリカの映画では人種問題を根底に置いた作品は多く作られているんです。

 先ごろNetflixで『ブライト』という映画が配信されました。人間の他にエルフとオークが混ざっているという設定で、ウィル・スミス主演と言う力の入りようでもあったので配信後すぐ視聴したのですが、怪物であるオークたちがまんま黒人のカルチャーを取り込んでいて、メタファーでも何でもない。現実をファンタジーに取り込んだ結果なのでしょうが、まるで黒人は怪物だ、とでも言っているようで、こういう表現はどう思われるんだろう? と素朴な疑問が出てしまいました。

 一応フォローすると、ウィル・スミスと真面目な警官のオークがタッグを組むバディ物でエルフが悪かったりもするのでセーフなのかも知れません。

 Netflixでは他にも連続ドラマで鋼鉄の皮膚を持つ黒人男性が主人公である『ルーク・ケイジ』、そしてDCコミックスの電気を操る黒人ヒーロー『ブラック・ライトニング』が配信されています。

 『ルーク・ケイジ』は、まさに強い黒人の象徴のようなキャラクター。「スイートクリスマス」が口癖で、ハーレムを守る為に戦うマッチョな男です。

 一方の『ブラック・ライトニング』は学校の校長が実は元ヒーローで、地元の治安を悪化させるギャングたちから街を守る為に再び立ち上がる、という話。『ブラック・ライトニング』はツッコミどころが多くてある意味凄く楽しい作品なのですが(校長先生がゴーグルをかけただけなのに誰も正体に気が付かない世界ですから)、この両作品に共通しているのが、どちらもご当地で黒人たちの問題を解決するべく奮闘しているところ。

 要するに、どちらも黒人のヒーローなんですね。

 黒人が求める黒人のヒーローという感じです。

 こうした作品はこれまで数多く作られてきました。ブラックスプロイテーションという黒人向けの映画が70年代頃からアメリカには既に存在し、彼らのカルチャーを表現し続けました。

 『ブラックパンサー』はそうした映画の最新作でありながら、そのどれとも違うある意味で到達点の映画ではないかと僕は感じています。

 これまでの多くの作品は現実的な中でヒーローを登場させていたのに対し、『ブラックパンサー』は飛躍的です。

 何故なら、ブラックパンサーのいるワカンダ王国は、この地球上でどこよりも文明が発達した国だからです。

 このファンタジーだからこその表現! 最高だと思いませんか?

 日本人にアフリカのイメージを聞くと、多分ほとんどの人が頭に動物と未開の部族が浮かぶでしょう。最近はそうしたイメージが間違いである事を伝える番組も出てきましたが、まるでそうであってほしいと願うようにTV等ではそうしたイメージの下放送されており、それが刷り込まれてしまっています。

 多分こういうイメージはアメリカでも大差ないのでしょう。

 そこへ突然、革命的な作品が投入されたような感覚です。

 映画の中で描かれた地球上のどこよりも文明の発達したアフリカの国が突然出現したようなもの。

 実際、『ブラックパンサー』はアメリカでも黒人層の集客に後押しされる形で大ヒットしていると聞いています。映画って、人の心にある何かもやもやをうまくカタチに表現できると大ヒットにつながると思うんです。以前『シン・ゴジラ』と『君の名は。』は東日本大震災への救済がテーマだったのではないかと書きましたが、『ブラックパンサー』にも近いところがあるように思います。

 この映画の登場により、これまで作られてきた数多くの黒人の為に作られてきた映画が一発で古くなってしまいました。

 それぐらいの衝撃を持っているんです。

 これまで最高の文明を持っていながら他国への干渉をせずに発展してきたワカンダ王国。そうする事で小国を守っていたのですが、前王がテロで命を失い新しい国王となったブラックパンサーは、ワカンダで生まれながらもアメリカで生きる事となった王位を持つ男・もう一人のブラックパンサー(キルモンガー)との戦いの中で、ワカンダの存在を世界に知らせる事を決意します。

 父親を超えるというアメリカの作品では最も教科書的なモチーフを取り入れながらも、アメリカに住む全黒人の胸をすかせるという前人未到の一大傑作に仕上がっている点が非常に新しく、そして素晴らしい。

 本当にこれまでなかった映画です。

 近年タランティーノは映画の中で史実では悔しい想いをした人々を救うような映画を作成しています。『イングロリアス・バスターズ』で映画館でナチスを撃破し、『ジャンゴ』は奴隷の黒人を賞金稼ぎにし、『ヘイトフル・エイト』でも肌の色の違い、立場や人種での争いを克明に描きました。

 タランティーノはこれらの映画をかなり骨太な演出で真っ向から描き切り、どれも素晴らしい出来栄えですが、そこからさらに発展しSF、それも今最もヒットしているアメコミ映画の中でそれをやってのけた事、そしてそれがヒットしている事がかなり重要です。

 シールコレクターにはお馴染みの映画に『キング・オブ・エジプト』という作品があります。アメリカでのタイトルは『ゴッズ・オブ・エジプト』で『エジプトの神々』なのですが、登場する神々のほとんどを白人俳優が演じたためアメリカでは批判の的となり、内容が面白かったのにも関わらず大きなヒットには至りませんでした。

 今多分、少しずつ映画は変わりつつあって、明らかなウソは通用しなくなってきているのかも知れませんね。

 『ブラックパンサー』の登場はその象徴となるでしょう。

 しかし、では日本ではどうでしょうか。
 多分、アメリカの人種差別問題は多くの人の関心にない出来事なのだと思います。

 だから、『ブラックパンサー』は響かないんです。

 ピンと来ない。

 黒人がたくさん出てくるヒーロー物でしかない。

 そうなると映画を観る基準がまったく異なってしまいます。他の見知った顔の多く登場する『アイアンマン』、『キャプテン・アメリカ』、『スパイダーマン』なんかと比べてしまう。その視点で観てしまうと急にマイナーなアメコミヒーロー物になってしまうのです。

 そうなった時、多くの日本人がこの映画に出す結論は「よくわからなかった」でしょう。「よくわからない」を「つまらない」と表現する人は非常に多いです。

 「期待外れだった」というのも良く分かります。期待しているものはこの中には出てこないですから。白人のヒーローも出なければ、ヒップホップも出ない。ヴィヴラニウムの溶け込んだハーブの力で超人となり、高度な文明で作った黒豹のスーツを着込んだヒーローが大活躍する映画です。

 それを楽しまなければ、この映画は楽しくありません。

 私は視聴中、まったくの黄色人種、アジア人であるにも関わらず、気持ちだけ黒人の仲間入りをさせていただいて、凄く胸が熱くなりました。そこまでいかなくても、今までちょっと虐げられていたような人だったら、感情移入できるのかな。誰だってきっと、そういうところあると思うんです。

 ずっと我慢して我慢して、その辛い状況が変わっていくような、そんな気持ちのいい映画なんですよ。

 映画のラスト、アメリカの黒人の少年がブラックパンサーに尋ねます。

「あなたは誰?」

 ブラックパンサーは優しく微笑みます。

 すぐ先、誰もが彼の顔と名前を知る事を知っていたからです。

 私はここで終われば最高だと感じたのですが、もう少し話は続き、ワカンダの王として国連で演説するシーンが出てきて、それは感動的なのですが多少蛇足かなとも感じました。この辺は好き好きでしょう。

 また、最高だ傑作だと、書きましたが今書いたような部分と、ワカンダのお偉いさんがまんま『スターウォーズ』の元老院のような登場のさせ方、つまり異星人のような描き方をしていて、このテーマだとそれは合ってないだろうと感じる部分がありました。

 細かい良いところも多くある映画で、キルモンガーが王座に座る前の逆さから回転していくショットなどは堂々とした演出で「お! 今のいいね!」と思ったりもしましたし、ステルス機能を持った戦闘機を下から見るとアフリカ部族のお面みたいだったりとか、自然と文明の融合した世界は面白いですよね。

 それから、エンドクレジットの後に映像があります、と冒頭で流れたのでお客さん全員最後まで観ていたのですが、ほとんどの人が最後に登場した人物を誰か分からなかったみたいで、「今の何?」みたいな感じで帰って行ったのが印象に残りましたかね……。

 『ブラックパンサー』、映画史に残る凄い映画です。

 色んな感性を持って楽しんで観ていただきたいなと思います。

 僕は今、彼のアクションフィギュアがほしくてたまらないんですよ、それほどハマってしまいました。

 そんな訳で、
 こちらからは以上です。