「儲かる会社は社長で決まる」の連載を終えて


やっと書きあげた。これが率直な実感である。

毎週、更新する連載は初めての経験だった。もちろん、毎週シリーズで書くことはあっても、読み物として連続性のある連載はこれまで書いたことがなかった。

ペトロケミカル分野のマーケティング・リサーチ、流通業界、物流業界などで長年ヒアリングや取材をしてきた。その中でも物流分野での取材経験が最も長い。そして現在は“物流ジャーナリスト”と称している。ペトロケミカル分野でのマーケティング・リサーチを皮切りに、今日までの間、実にたくさんの方がたに会って話を聞いてきた。いや、聞いてきたのではなく、自分では聞き出してきたつもりでいる。

取材で会っていただいた方は、やはり経営者が一番多い。そして経営者に準ずるような人たちである。しかし、それだけではない。中間管理職、現場の責任者、現場で働いている人たち。政治家や官僚、学者など実にたくさんの人たちに会って取材してきた。

また、企業ということでいえば、実に様ざまな企業を取材してきた。しかし、数から言えば中小企業が圧倒的に多い。当著のベースになっているのも、中小企業のオーナー経営者との取材を通して得た経験である。

私的な体験を踏まえていえば記憶に残る大きな経済的変動は、第一次オイルショック、バブル崩壊、ビッグバンやリストラクチャリングを経た経済構造の大転換、リーマンショック、さらに東日本大震災などであった。 そして、現在の時点から振り返ってみると、実体経済と虚構経済との乖離の出発点になったのは、1971年8月のニクソン・ショックではなかったか、とも考えている。

もちろん、その間にも好不況が幾度も繰り返された。

そして不況の度に企業の倒産件数が増える。不況時の倒産で多いのは、信用調査会社の倒産情報などによれば、「不況型倒産」と呼ばれる倒産のタイプである。

この不況型倒産を、当初は、「不況を原因とする倒産」と理解していた。だが、取材の経験を踏まえて考えると、不況を原因として倒産する企業は極めて少ないのではないか、と思うようになってきた。倒産する企業には倒産する要因が社内にあるのである。つまり倒産の本当の原因は内部要因なのだ。倒産するような内部要因を内包していても、経営環境が好況ならば、倒産に至らないで何とか経営が維持できていただけである。ところが、不況になると持ちこたえることができなくなって、その結果、倒産することになる。

つまり倒産の本質的な原因は不況にあるのではなく内部要因にある。そして、不況はあくまで外部要因の変化であり、倒産のキッカケに過ぎない。

それでは倒産するかもしれないような内部要因がどこにあるのか、と言えば、それは最終的には経営トップにある。倒産の一番の原因は経営トップなのである。

反対に業績を伸ばしている企業は、様ざまな要因があるが、最終的には社長の状況認識、経営戦略、経営手腕である。良くも悪くも企業は結局のところ社長に行きつく。良き参謀がいたり、有能な管理職や優秀な社員が存在するというのも、社長力と言ってよい。

そこで、取材経験を踏まえて、社長という“業”を考えてみようとしたのがこの連載である。

経営者には長所もあれば短所もある。人間的な強さもあれば弱さも持っている。当然ではあるが性格も実に様ざまだ。そして人間的な器や品格という点も見逃せない。

しかし、このような経営者たちが日本の経済を支えていると言っても過言ではない。もちろん、経営者の下で働いている従業員の人たちも同様に日本経済を支えていることはいうまでもないが、経営者と従業員では大きな違いもある。

社員とその家族はその会社あるいは仕事に「生活がかかっている」。しかし、ある経営者が次のようなことを言ったことがある。「たしかに社員は生活がかかっているだろう。しかし、自分は生活だけでなく、全財産もかけている。生命すらもかかっている。だから生活がかかっているといっている社員たちよりもずっと必死なんだ。そのために独りで悩み、苦しんでいる気持ちが分かるか」と。

この連載の執筆中に、書いている内容を40年来の友人に飲みながら話したことがある。彼は、中小企業までもいかない零細企業を経営している。だから当著の読者対象でもあるのだが、筆者の話を聞きながら、まったく自分の気持ちと同じだと賛同してくれた。

そして、「一つだけ頼みがある。日々、悩み苦しみながら企業を経営している多数の中小企業の経営者たちが、大企業の陰で日本経済を支えている、ということを必ず一行入れてほしいんだ」と要望された。かなりアルコールが入っていたが、忘れないようにその場でメモをしておいた。そして、必ず書くと言った約束の通り、「あとがき」に記しておく。