傭車比率を減らし自車両増車の傾向

~「アベノミクス」はほとんどが懐疑的で、ドライバー不足への対応も進む ~

M Report 2015年5月号から


3月決算をみると、大企業の多くでは好業績という結果になっている。また、株価も上昇している。マスコミでは景気が上向きつつあるような報道が基調になっているが、はたしてどうなのか。これら公式発表にはいささか懐疑的にならざるを得ない。

そこで、トラック運送事業者が実感している実態経済の現状はどのようなものか。また、ドライバーの不足感や今後の対応などについて、関東の事業者を中心にリポートした。取材したのは大型長距離輸送、中ロット積合せ輸送、重量物輸送、物流子会社などで、輸送品目は食品、建材、鉄鋼、工業製品、雑貨その他である。

◇ 少子高齢化や地方の過疎化、流通構造の変化なども少しずつ影響 ◇

まず、ここ数年間の変化についてはどうか。東日本大震災の復興需要などと関連が深いと思われる鉄鋼輸送事業者は、復興需要などがそれほど増えてはいないという。鉄鋼などを量的に使うのは住宅など建築分野ではなく、基礎的な土木分野であり、まだ鉄鋼需要に結びつくまでには至っていない、ということのようだ。

もっとも震災直後には、「被災地の2次加工工場向けに荷物が動いたが、被災地にある製鉄所が復旧して稼働するようになってからは、関東などからの輸送はそれほどでもなくなった」。また、「福島第一原発事故の影響から、被災地とは離れた地方の原発における防潮堤のかさ上げ工事用に鉄鋼需要があった。しかし、それも現在では一段落した」という。

建材関係では、消費税増税後の昨年4月以降は住宅着工件数も減少しており、「昨年5月ぐらいから輸送量が大きく減少した」という事業者もいる。「昨年秋口には少し回復の兆しがみられたものの、その後、再び減少に転じ今年2月には昨年5月と同じぐらいの落ち込みになっている」と話す。

一方、首都圏にある食品メーカーの工場から、地方に長距離幹線輸送をしている事業者では、「ここ2、3年の変化としてはメーカーの地方の拠点への輸送に対して、大型小売店の物流センターへの直送が増えてきている」。この間に商品も変化していて、重量に対して容積が大きくなる傾向がある。そこで「低床車に切り替えて容積重視の効率的積み合わせ」をするように対応してきた。

食品でも菓子などは少子高齢化の進行が影響するようになり、メーカー間で数量の格差が出てきているようだ。前年比で100%を超えるメーカーもあれば、100%を切るメーカーも出てきているという。

この間の流通構造の変化を反映しているのが、ネット通販関連の資材などである。「ネット通販商品の梱包などに使用される緩衝材などは順調に増えている」ようだ。

また、以前から「限界集落」といった言葉が使われていたが、さらに最近では「地方消滅」などという表現も一般的になってきた。このような社会的変化を反映して、「地方では荷主がデポを集約するような傾向もみられるようになってきた。各メーカーともデポを置いていない地方すらある」ようだ。このような変化の中で、後述するように複数のメーカーが物流を共同化するような動きが進行している。

地方の人口減少などとの関連でみると、いくつかの事業者が指摘するのは東北の消費量の減少である。「東北はトレンドとして減少してきたが、東日本大震災がその傾向を加速化させた」という見方をする事業者もいる。大震災の被害は小さかった青森県などでも、「首都圏に来るトラックが減少している。運賃は上がっているのだが、上りの荷物量が減少している」ようだ。

同様の指摘をする別の事業者は、「全体的に東北は落ち込んでいる。首都圏からの下りの荷物はあるが、首都圏への上りの荷物は少ない」。その一方で、東北エリア内で動く荷物は増えてきたという。この事業者は、「大震災後に東北に新たに進出した製造業と、そこに部品などを納品する部品メーカーの進出、さらに従来からの地場工場の復興などにより、東北域内で完結する物流が増えてきた」ことがその理由と分析している。

東北に限らず地方においては過疎化が進行している。そのような中で地方においては貨客輸送が現実的な課題になってきつつある。法的に云々という段階ではなく、極めて現実的な問題になっているのだ。買物代行や安否確認などはすでに一部の事業者が行っているが、地方においては貨客輸送もサービス化の段階に来ている、と指摘する事業者もいる。

◇ 事業者の多くは「アベノミクス」効果を実感しておらず否定的 ◇

次に「アベノミクス」効果についてはどうか。これについては、ほとんどの事業者が「アベノミクス効果はない」と即座に言い切った。

ある事業者は、「荷主の業績は良いが国内は減産。また、国内輸送は多層構造で、実運送事業者には景気の影響がでてこない」という。

また別の事業者は「アベノミクスを実感として感じている人はいない。当社の荷主業界では、原料を輸入している関係もあって、むしろTPPの動向の方が関心が高い」。

一方、「アベノミクス」による直接的効果はないとしながらも、間接的な影響が出ているという事業者もいる。「直接の効果はないが、最近は路線事業者が効率の悪い荷物を敬遠するようになったために、中ロットの荷物が回ってくるようになった。効率の悪い荷物については路線事業者が強気で運賃値上げ要請しているからだ」という。

アベノミクスで感じるのは「円安ぐらいで、とくに効果は感じていない」と話す事業者もいる。円安の関連でいえば燃料高というマイナス影響になってしまう。

さらに景気との関連で東京オリンピック(2020年開催決定)効果については、どの事業者も「現在の時点では具体的な動きがない」としている。一般論としては期待もあるが、まだ未知数といったところだ。

オリンピック需要が期待される鉄鋼輸送などの事業者からは、「オリンピックの開催決定では現在のところ自社にはマイナスの影響が出ている」という意外な答えが返ってきた。「高速道路の老朽化などとの関連で、通行許可の問題が出ている。通行が重量制限されて非効率化している」というのだ。

競技場の建設や改修などでは多くの建設資材が必要になる。これも現在の時点では具体的計画が分からないが、建設資材関連の一部の荷主では、「首都圏までは船で運び、湾岸エリアに資材センターを設けて現場にデリバリーするような構想で動きが始まっている」ようだ。物流事業者に対しては、「資材センターの場所をピンポイントで指定している」荷主もいるという。

また、オリンピック開催期間中の通行規制を心配する事業者もいる。食品、日用雑貨などの生活必需品の都内配送がどうなるのか。現時点では予想できないが、「1964年の東京オリンピックとは条件が全く違う」なかで、確実な配送体制を構築しなければならないからだ。

一方、現在の時点ではオリンピック効果が出ていないものの、「オリンピックまでに保有車両数を約25%ほど増車する計画」の事業者もいた。食品などを取り扱っている事業者だが、「開催期間中に一時的に市場がどうなるかは未知数だが、オリンピック後も視野にいれた将来性を考えての判断」だという。

また別の事業者は、「オリンピックの影響はない。だが倉庫の建設費が2倍ぐらいになってきており、マイナス影響が出ている。現在、ある企業から一括委託の引き合いが来ている。そのためには専用センターが必要になるが、建設費の高騰で見積りの算出が難しくなっている」という。

円安などの影響もあって、最近は生産拠点を海外から国内にシフトする、いわゆる国内回帰も製造業の一部にみられる。この国内回帰について事業者はどのようにみているのだろうか。

ある事業者は「海外移転か国内回帰かということでは、長い目で見れば海外に出ていく」という見方をしている。ほとんどの事業者は同様の見方だ。ある事業者は「国内回帰は想像できない」という。同社が取引の多い荷主はずっと以前から海外に進出している。この海外工場で生産された製品の動きが、昔とは変化していることを指摘する。「昔はバイ・カントリーだったものが、最近は工場のある国だけではなく、製品を国際的に販売するようになってきている」からだ。

また、「以前から海外に出ている荷主もいるが、品質の良い製品は海外工場ではダメなようで、品質の良い製品は国内でつくって輸出している」という事業者もいる。同社ではそれら輸出向けの製品を東京港や横浜港まで輸送しており、「荷物の量は安定している」という話だった。

◇ ドライバー不足感は事業形態で差があり、募集などにも工夫が必要 ◇

次にドライバーをはじめとする人材確保難の実態および対応などはどうか。

昨年暮も今年3月の年度末も、一昨年暮れや昨年3月ほどのトラック不足にはならなかった。

ある物流子会社では「今年の3月は傭車も含めて需給は緩和している。幹線輸送部門(大型車長距離輸送)でも今年2月ぐらいから需給が緩和しており、3月でも車両が余っていたぐらいだ。JRコンテナも3月は減っている」という。その理由としては、「メーカーなどの売り方も変わってきている。従来のように月末や年度末に大量に販売するような販売方法はなくなってきた。極論すると、荷主によっては3月末は売らなくても良い、となってきた」と話す。

また中ロットの積み合わせを行ってる事業者では、「昨年の夏ぐらいまでは大変だったが、荷動きが悪くなってきているので、それほどドライバーの不足感ははなくなってきた。最近は充足できるようになっており、不足感はあるがそれほど深刻ではない」。

一方、地方で大型車やトレーラで長距離輸送を行っている事業者は、「ドライバー不足は深刻な問題。ドライバーがいれば動かせるのに、ドライバーが確保できないので稼働していない車両が150台ぐらいある」といった状況もある。大型車で長距離輸送の事業者ではドライバー不足がいかに深刻かが分かる。

また、鉄鋼輸送の事業者は「当社は現状では不足ぎみ、といった程度だが、今後はドライバーの絶対数が足りなくなるのではないか。鉄鋼輸送ではけん引免許などの他にも固縛などの技能が必要で、一定の教育期間が必要である。そうなると同業者同士のネットワークなどで効率化を図っていく必要がある」と考えている。

大型車による長距離輸送でも、首都圏から地方への食品輸送をしている事業者は「ドライバー不足と大型免許などの問題から、積み合せて積載効率を高めてトラックの台数を減らすようにしている。これは自車両だけでなく、傭車でも積載効率を高めるような荷物の組み合わせにしている」という。

このようにドライバー不足も各社の事業形態によって差が大きいようだ。

一方、募集などでも工夫が必要である。現状ではドライバーは不足感はあっても深刻なものではないという事業者は、ドライバーを募集して採用できることが大きな理由のようである。「Webで募集すると数人は応募してくる。当社では2t車で募集して未経験者を採用するようにしている。採用するのはサービス業など他の業種からの転職者で、トラック・ドライバーは未経験の人である。最初は2t車に乗務させて育てて4t車に乗務させるようにしている」。

2t車で未経験者を採用するのは、「集めやすいということもあるが、未経験者の方が社員教育などもしやすいので人事政策としてもよい」からのようだ。それに対して4t車で募集すると、「応募者はほとんどが同業者からの転職者が多い。運送業の経験者はクセがあって社内教育なども難しい」という。

採用という点では、高校新卒者を定期採用する必要性などもでてきた。ある事業者は「高校在学生に採用内定を早く出して、会社が費用を出して卒業前に準中型免許を取らせるようなことも考えていかなければならない」という。

ある物流子会社では、実運送部門では数年前から高校新卒者の定期採用を行うようにした。そして各種免許(運転免許だけではなく)の取得を援助するようにしている。

だが、ドライバー確保においては若年労働力の減少という人口構造面からの制約と同時に、給料や労働時間といった社会、経営的な面からの問題もある。とくに改善基準告示をどのようにクリアするかは、人材確保だけではなくコンプライアンスにも関わってくる。ここで取材した各社は、労働時間面でも様ざまな努力をしている。

大型車で長距離輸送を主体にしている事業者は、首都圏から九州あるいは九州から首都圏への輸送では、有人トラックの場合なら瀬戸内海はフェリーを利用して休息などに充てている。そのため同社では、「荷主と話し合って従来の翌日納品から翌々日納品にした」。九州~首都圏ではトレーラ・シャーシの無人航送にするなど、上下の荷物量によって様ざまな組み合わせをしている。要望としては「東京~大阪のフェリー航路があれば使い勝手がよいのだが‥‥」という。

また、重量輸送の事業者は、ドライバー確保と労働時間短縮の両面から、「かなり以前に同業者との連携で中継輸送を実験的に行ったことがある。しかし、その時は上手くいかなかった」という。その理由は、実験を行ったのがかなり以前だったので、携帯電話などもまだあまり普及していなかったからである。一方の車両が中継地点に早くついたり、あるいはもう一方の車両が道路事情などで遅れたりしても、スムースに連絡が取れなかったりしたからであった。「その後、通信手段も発達してきたので、現在なら連絡なども上手くいくだろう」という。そこでこの事業者は、同じ鉄鋼を運んでいる同業者とのネットワークづくりに力を入れていく方針だ。

◇ 労働力確保難へのリスクヘッジに自車両重視、物流共同化などの対応も進む ◇

しかし、拘束時間の問題は完全にクリアすることはなかなか難しいのが実態である。そこで、リスクヘッジとして分社化などで対応するような動きも一部ではみられる。

さらにトラックの大型化や積載量を増やせるような努力で、ドライバー不足を補填するような傾向もみられる。

大型車による長距離輸送の事業者では、低床車によって容積を重視する方向にある。また、2t車や4t車による集配業務の事業者でも、先の事業者と同じように容積重視の車両にしている。そのため4tロング車を重視している。なぜ4ロング車かというと、「運賃は大型車と同じぐらいになり、大型免許がなくても乗務できる。車両価格も大型車の半額ぐらいで、燃費も大型車に比べると50%ぐらい良いから」である。

この事業者は容積重視で積載量を増やすとともに、実車率の向上を図るとしている。「1コースで配送件数を増やすのは難しい」からである。労働時間の延長などにもなるからだ。そこで返品物流に力を入れていくという。「実車率を向上する方法の1つが返品物流。納品先から返品されるものを積んで帰ってくるので、件数は同じで集荷効率が良くなる。面白いもので、納品は待たされるが、返品荷物の積込みは急かされる」と笑う。

いずれにしても、ドライバーの人数を増やさないで収益性を高めるような事業形態に移行していかなければいけない。

今回の取材で全体的に特徴的だったのは、傭車比率を下げて自車両比率を高める傾向がみられたことだ。これもドライバー確保やコンプライアンスなどが、その根底に横たわっている。

ある事業者は「自車両4で傭車が6の割り合いだが、これを自車両6、傭車4の割合にしていく」方針だ。自車両比率を高める理由は、「ドライバーのワークバランスなどを考える会社でないと人材を確保できなくなる。いざという時に荷主に迷惑をかけないような体制にしないといけない」からである。

また、先に東京オリンピックまでに自車両を25%増車するという事業者を紹介したが、同社でも自車両を増やす理由として「これからは傭車ではドライバーの確保が難しくなってくる。また、長距離から撤退する事業者も増えてくる。自車両を増やして確実に運べるようにして行かないと、会社をこれ以上に伸ばすことはできない」という考えである。

労働力確保とコンプライアンスという点では、すでに月60時間以上の残業に対しては賃金割増率50%に対応できるような賃金体系に移行した事業者もある。

このようななかで荷主企業も様ざまな対応策を進めつつあるようだ。メーカー数社で物流共同化を検討している事例では、この間のシミュレーションによると工場から各地の拠点や大型小売店のセンターに直送する幹線輸送では、車両の大型化なども含めて現在よりも車両数を30%削減できる。また各地の拠点からのエリア配送では、逆に車両の小型化を進めて1回の配送件数を減らし、車両の回転数を増やすことで、大都市部では車両数を16%削減し、地方では30%の削減が可能としている。しかも、ドライバーの手待ち時間も原則的になくす仕組みで、労働時間短縮なども含めた計画を検討している。

このようにみてくると、社会、経済構造の変化をどのように分析するか、また、その変化への対応も各社各様に進めていることが分かる。