オムニチャネルと消費財物流の変化

~ 物流内製化でダークストアの多機能化と自前の宅配システム構築へ ~

M Report 2015年10月号から


セブン&アイHDが11月1日から「オムニセブン」をスタートする。同社は持続的成長に向けて、①過去のチェーンストア理論の否定、②店舗主体の運営体制の構築・強化、③オムニチャネル戦略の推進の3つを今年度の重要経営方針として事業を推進してきた。今後、数年間でイトーヨーカ堂の不採算店舗を約40店閉鎖するという発表や、オムニセブンもこれら経営方針の一環である。

オムニセブンは、セブン-イレブン、イトーヨーカ堂、そごう・西武などのグループ会社がそれぞれに運営していた通販サイトを集約化。また、ネットで注文した商品を全国のセブン-イレブンの店舗で受け取れるようにするなど、コンビニ業界トップのセブン-イレブンの店舗の強みを活かした戦略である。取扱商品は180万点でスタートし、2018年度には600万点に増やす。また、オムニセブン限定のPB商品の開発も進め、2018年度におけるオムニセブンの売上目標を1兆円としている。

セブン&アイに限らず、大手小売業(百貨店、総合スーパー、コンビニ、家電量販店、家具量販店、ドラッグストア、ホームセンター、その他)では、オムニチャネル化を進めている。それは大手小売業の生き残りのキーワードがオムニチャネルだからである。国内市場が縮小する中で、オムニチャネルとそれに対応した物流システムを構築した小売業が勝ち残る、というのが今やアナリストや機関投資家の共通認識になっている。

そこで当リポートでは、オムニチャネルに対応した物流システムとはどのようなものかを探るための取材を、この間、進めてきた。だが、当初の計画通りには取材が進んでいない。その理由は、①オムニチャネルは経営戦略レベルの内容のため副社長などのクラスでないと取材対応ができず日程調整が難航していること、②同様に経営戦略に関わるために取材に対して各社とも非常にナーバスであること、③一部企業を除くとまだプロジェクトで検討中の段階という企業が多く戦略として形ができていないこと、などである。

だが、オムニチャネルと物流への関心は高く、ダイヤモンド・フリードマン社発行(ダイヤモンド社発売)の『ダイヤモンド・ホームセンター』11月号に出稿することになった。また、全運研発行の『物流展望』秋号にも出稿した。前者は流通業界関係者が主たる読者であり、後者はトラック運送業界関係者が主たる読者なので、それぞれの対象を想定して内容は変えてあるが、これらの2本の原稿を基に、当リポートの読者向けバージョンに書き直して中間報告的な概要を掲載することにした。

いまや小売業の物流においては、物流センターの運営と店舗配送を一括業務とするセンターフィー方式が当たり前になっている。だが、30年ぐらい前までは、メーカーや問屋がそれぞれ店舗に直接納品していたことを思い出してほしい。川下の物流はそのように変化してきたが、そのころから業界に関わっている人で、その当時、はたして何人の人が現在のような仕組みがスタンダードになると予測していただろうか。

当時と比べると、これからは変化の速度が増してくる。おそらく今後10年もしないうちに、川下の小売業においてはオムニチャネルに対応した物流がスタンダードになってくるはずだ。それに対応する形でメーカー物流も変化する。5年後、10年後を見据えた大きな方向性として参考にしていただきたい。

1. 大手小売業の生き残りのキーワード「オムニチャネル」

まず、オムニチャネルとは何かである。

近年はネット通販(バーチャル店舗)が伸びている。日本においても、経済産業省の調査によると昨年(2014年)のネット通販(EC)の市場規模は約12兆8000億円(前年比14.6%増)で、EC化率(小売市場に占めるネット通販の比率)は4.37%と、初めて4%を超えた。ネット通販が伸びる分だけリアル小売の市場が侵食されることになる。とくに国内市場が縮小している日本においてはリアル店舗に与える影響は大きい。

これは日本に限ったことではなく、どこの国においてもネット通販の伸長に伴い、有店舗小売(リアル店舗)の市場が侵食されてきた。そこで全米小売業協会では2011年1月に「モービル・リテーリング・ブループリント」を発表した。これがオムニチャネルの始まりである。

リアル店舗はバーチャル店舗の侵食にいかに対抗するかという課題を抱えていた。たとえば店頭で商品を確認したり説明を聞いて、ウェブで検索してその商品を一番安く売っているネット通販会社から購入するといった、ショールーミングなどはその最たるものである。だがリアル店舗もウェブその他のあらゆるチャネルを駆使して販売していくという、積極的で攻撃的な新しい小売業態を指向するのがオムニチャネルだ。ブリック&モルタル(直訳はレンガとしっくい=店舗をもって行っている小売業の意味)からクリック&モルタル(店舗とネットで販売する小売りで、「ブリック」をもじって「クリック」としているようだ)へである。

たとえばショールーミングへの対応では、店頭で商品を確認した顧客が、商品についているバーコードをスマフォで読み込めば、自動的に同店が運営するネット通販サイトにつながる。さらにそのサイトでは、顧客がその店で購入したことがあれば過去の購入データや、その店で購入したことがなくてもその商品を購入する人たちの購買傾向などのデータから、関連商品を推奨するレコメンド機能も持たせる。そして、購入商品の受け渡しでも、店頭で販売した商品を宅配する、あるいは自宅の近くのコンビニ店舗で受け取れるようにする、その他の受け渡し方法といった対応をするようになってきた。

百貨店、量販店、コンビニなど複数の小売業態を抱えるグループでは、たとえば量販店のA店舗では品切れでもB店にならあるとか、あるいは量販店になくてもグループ百貨店のC店にある。さらに、グループのどの店舗にも在庫がないが物流センターにならあるとか、メーカーになら在庫があるといったことが店頭のタブレットで検索できる。もちろん単一業態の小売り、たとえばトイザらスなどでは、すでに店頭のタブレットで在庫確認などができるようになっている。

その場合、顧客がどのような受け取り方を望むかによって、リードタイムがどうなるかまで確認できる、といった販売手法になってきつつある。

つまりオムニチャネルを簡単に表現すれば、販売側では「いつでも、どこでも、どのような方法でも」販売できるようにすることであり、購入者にすると、いつでも、どこでも、どのような方法でも購入できる。また売買した商品を、いつでも、どこでも、どのような方法でも引き渡せる、受け取れる、ということになる。

イケヤが熊本に通常の10分の1の小規模店を出店する計画だが、これなどは店頭でのネット通販と連動した販売や、商品の受け取り所という機能などを持たせた、オムニチャネル化の一環である。

このようなリアル店舗のオムニチャネル化に対して、バーチャル店舗側からは逆オムニチャネル化といった動きが進んでいる。ネット通販会社が自社でリアル店舗を出店したりする動きである。アパレルなどでは試着のための店舗を出したりするケースもある。また、リアル店舗と提携して店舗販売のチャネルにも進出すると同時に、その提携した店舗をネット販売した商品の受け取り場所にする。

ネット通販会社と提携したリアル店舗側では自動的に自社のネット通販の強化になる。また、ネット通販が販売した商品の受け渡し場所にすることで、来店した顧客の嗜好にあった関連商品をレコメンド(推奨販売)できるなどのメリットがある。

2. 販売・商品・物流・マーケティングを一体とした企業戦略が必要に

このようにオムニチャネルは新たな販売戦略だが、商品戦略や物流戦略、マーケティングも同時並行して総合的に戦略展開しなくてはならない。今後の大手小売業の基本的な企業戦略そのものである。

まず、販売戦略から簡単にみると、同一商品には同一価格が必要になる。百貨店、量販店、コンビニなど複数の小売業態で構成するグループなら、どの業態のどの店でも、さらに自社のネット通販サイトでも、同一商品は同一価格が求められる。

ちなみに、経営戦略の見直しを進めている家電量販店のヤマダ電機については、苦戦の原因が店舗戦略にあったというのが一般的な見方だ。だが、販売手法や価格政策にも一因があったことを見逃してはならない。ユーザーがネットで価格を比較するようになり、同店の販売価格が一番安いという幻想が崩れてしまったからだ。それに対して早くからネット販売に力を入れ、ネットと店頭を連動させて同一価格戦略を展開してきたヨドバシカメラは伸びている。同社の売上は、今年度はネット通販だけで1000億円を超えるといわれている。これはアマゾンに次ぐ売上高である(楽天の売上をどのようにカウントするかにもよるが)。いずれにしてもクリック&モルタルで成功している事例である。

ところで同一商品、同一価格が求められるようになると、タイムサービスで価格を下げても売り切ってしまう量販店と、値下げしないコンビニとの、グループ内での整合性といった課題が出てくる。これは単一業態の小売りでも同様である。百貨店だけの店舗展開でも、たとえばアパレルなど季節性のある商品では、福岡店では値下げする気候になっても、札幌店ではもう少し定価販売が可能といったこともある。従来はそれぞれの店舗の判断でもよかったが、オムニチャネルでは全店舗が同時に値下しなければならず、判断のタイミングが難しい。大手百貨店でもオムニチャネル化に伴う課題の一つとしている。

このようなことから、オムニチャネルに対応した商品戦略が取り入れられつつある。グループ内のすべての業態に共通するPB商品の開発などである。セブン&アイではグループ内のネット通販サイトの統一で、ネット通販商品については統一を図った。PB商品も増やしていく方針のようだ。それに対してイオングループは、PBの見直しを迫られているという。これは単一業態の小売りでも同様である。その小売店が主要ターゲットにしている顧客層にあった、オムニチャネル対応の商品開発が必要になってきた。百貨店などは富裕層向けのオムニチャネル対応商品の開発である。

一方、特定の商品カテゴリーに絞り込んだ小売業ではSPA(製造小売)化を指向することも考えられる。ファーストリテイリング(ユニクロ)はSPAで成功したが、他社でも特定の商品カテゴリーで展開している小売業では、オムニチャネルの商品戦略としてSPA化が進むものと思われる。

また、社内的には、販売した商品をどこの売り上げにするか、といった問題も出てくる。あくまで社内的な事情ではあるが、販売した商品をどのチャネルの売上げとして計上するかである(販売実績)。店頭で店員が商品を説明し、顧客がその店の通販サイトで購入した場合、その売上げは店員が接客した店なのか、それとも直接注文を受けた通販部門になるのか。会社としてはオムニチャネルによって売上げが増えれば良いが、各部門においては部門の業績の問題になる。店長など部門長にとっては大きな問題だし、店員個人の販売実績といったレベルにおいも、従業員のモチベーションに関わってくる。

いうまでもなくオムニチャネルでは物流が大きな課題になってくる。ラストマイルが極めて複雑になるからだ。たとえば店舗で商品を購入した顧客が宅配やコンビニ店舗などでの受け取りを希望する場合、商品を販売した店舗から出荷するのか、あるいは指定の受け取り場所に一番近い店舗から出荷するのか、それとも物流センターからが良いのか。これは先述のどの部門の売上実績かという問題とも関連してくる。

そして錯綜としたラストマイルをどうするかという問題である。配送距離や指定時間帯などの他にも、商品カテゴリーによる商品特性、そして配送コストなど総合的な判断が必要になる。

先述したようにリアル店舗にとってはショールーミングが大きな課題だった。だが最近では、購買者の購買行動がウェブルーミングになってきたという。巻頭言でも簡単に触れたように、リアル店舗で商品を確認してもウェブ上で確認してから購入する。あるいはリアル店舗に来る前に、まずウェブで商品を見つけだし、それからリアル店舗に来るといった購買行動である。「極論すると商品がリアル店舗にあっても、ウェブ上になければ、商品として認められない」、と話す大手小売業のオムニチャネル・プロジェクトの担当者さえいるほどだ。同氏によると、「EC化率は4%台だが、これは商業的な面からみた売上金額ベースの比率。それに対して購買行動という面からみると、あくまで個人的な感覚ではあるがウェブルーミングは20%ぐらいまでになっていると思う」という。

そのような購買行動の変化に伴って、セールスプロモーションもインバウンド・マーケティングが重要になってきた。インバウンド・マーケティングとは、ソーシャル・ネットワークで消費者に見つけてもらうようにするマーケティングのことらしい(Get Found)。従来はテレビ、ラジオ、新聞、雑誌、カタログ、DMなどで商品を訴求した。それに対してインバウンド・マーケティングは、消費者自らが見つけ出す、小売業からすると見つけ出してもらうようにする、というマーケティングの手法と言われる。

このようにオムニチャネルは、販売戦略、商品戦略、物流戦略、マーケティング戦略といった総合力の企業間競争だ。大手小売業の生き残りのキーワードたるゆえんである。

この競争を通して、リアル店舗とバーチャル店舗が融合した「オムニチャネル・リテーラー」という新たな小売業態が生まれてくると思われる。

そして、オムニチャネル・リテーラーは取扱商品の面からみると、①衣食住を総合的にカバーする、②衣食住のいずれか、③あるいは特定の商品カテゴリーに絞り込んだタイプ、④さらに各タイプのアライアンスなどに分類されてくるだろう。また、小売業態の面からみると、①複数の小売業態でグループを形成するオムニチャネル、②単一業態のオムニチャネル、③アライアンスというタイプになる。

ただし、ラストマイルのコスト負担という面からは、取扱商品を増やす傾向や、複数の企業によるアライアンスが進んでくると思われる。

3. オムニチャネルではとくにラストマイルを軸とした多種多様な合従連衡が進行

最近の日経新聞やその他で報じられている企業関係のニュースをみれば分かるように、オムニチャネル化を軸とした様ざまな企業間の合従連衡が進行している。この合従連衡の狙いも販売、商品、物流という3つの戦略面から見ると分かりやすい。

たとえばリアル小売とバーチャル小売の提携では、①両社の得意な販売手法を補い合うという販売戦略であり、②同時に双方とも商品アイテムを増やせるという商品戦略でもある、③さらにバーチャル小売りがリアル店舗を商品の引き渡し場所にするのは物流戦略だ。リアル小売もバーチャル小売もブランディングされた企業同士の提携なら、このように様ざまな面で相乗効果が期待できる。

そのような中で注目されるのがセブン&アイとファーストリテイリング(ユニクロ)の提携を巡る動向である(セブン&アイではユニクロとの話し合いは認めているが、提携については現時点では認めていない)。その他にも様ざまな提携があるが、コンビニ店舗というインフラをラストマイルに活かそうとする、物流戦略に主眼をおいた提携が目立つ。

その典型がローソンと佐川急便によるSGローソンだ。ローソンの店舗を核にしてラストマイルをフォローする。ヤマト運輸に比較するとC(個人宅)への配送ネットワークが劣る佐川急便としてはCへのラストマイルを補完するという狙いがあると思われる。佐川はCへの配送を軽トラック業者に外注していたために、ヤマトよりもラストマイルのコストが大きく、他社に先駆けて値上げに動いたり、アマゾンから撤退したという見方もある。

一方、ネット通販最大手のアマゾンも、ラストマイルのための提携には積極的だ。アマゾンの提携先としては、ミニストップ(店頭での商品受け取り)、ローソン(店頭での商品注文、商品受け取り)などがある。さらにコンビニとは異なるが、ヤマト運輸(営業所で当日受け取りを可能に)や、オートバックス(ネット注文し店舗で装着など)との提携などもある。

楽天も物流面でヤマトHDと提携した。楽天は日本最大のモール型ECで、小売型ECのアマゾンとは物流への対応が異なり、独自の物流システムの構築が難しい。アマゾンが独自の物流システムの構築を進める中で、どのように対抗するかが楽天の課題とみられていた。それに対して、フルフィルメントの物流拠点運営と宅配便を連動することで中小ネット通販を取り込みたいヤマトにとっては、多数の中小ネット通販が出店している楽天市場との提携は魅力だ。

ただ、セブン&アイ・グループとして独自のオムニチャネル物流の構築を指向しているセブン-イレブンは、楽天とヤマトの提携によるスキームにはのらないだろうとみられている。また、ローソンとヤマトの関係では、過去にローソンが日本郵便と取扱店契約を締結したことを理由に、ヤマトがローソンとの取扱店契約を破棄した経緯もある。したがって、ローソンとヤマト運輸には距離感があり、やはりローソンは同スキームにはのらないだろうとみられている。そうなると楽天とヤマトの提携によるコンビニ店舗での商品受け取りは、CV業界3位のファミリーマート以下のコンビニ店舗となる。そこで楽天は、別途にローソンと提携して全国約1万1000店舗で商品が受け取れるようにした。

その他、オムニチャネルを軸として、多種多様な合従連衡が進行している。その最大の目的はラストマイルをめぐる物流戦略と考えて良い。

また、2マン配送が必要な大物商品では、新たな動きも始まろうとしている。

カタログ通販老舗のニッセンは、アマゾンも2マン物流では提携したように、2マン配送では一つの軸をなしていた。アマゾンといえども2マン配送の大物物流では、コスト的に単独の配送網を構築できないからである。しかし、ニッセンはセブン&アイの傘下に入ってしまった。さらにニッセンは収益性の劣る大物から撤退することになった。セブン&アイの傘下に入ったのは、同社の業績が思わしくなかったからだが、その大きな要因の一つが2マン配送だったとみられている。もう一つの要因は、旧来からのカタログ作成、発送のコストであった。そこでオムニセブンでは、セブンイレブンの店頭のタブレットでニッセンの商品が買えるようにした。

このように大物商品の2マン配送はラストマイルのコストが大きなポイントになる。ニトリが物流子会社のホームロジスティクスの配送網に、2マン配送が必要な他社の販売商品を相乗りさせる方向を打ち出した。2マン配送が必要な大物商品は配送効率が劣るため、コスト重視のアライアンスが有効である。ニトリの2マン配送へのアライアンスの呼びかけは典型的なケースで、ラストマイルを軸に様ざまなアライアンスが進んでいる。

4. サプライヤー(メーカー・問屋)側もオンライン物流へのシフトが進む

メーカーや問屋などサプライヤー側でも、メーカー→問屋→小売物流センター(あるいは店舗)という従来のオフライン物流から、メーカー→EC物流事業者→(宅配便事業者)→ユーザーというオンライン物流へのシフトを進めつつある。

工場(あるいは港)からEC物流事業者のセンターに商品を移し、メーカーがネット販売した商品だけでなく、問屋や大手小売りの物流センターへの出荷などもEC物流事業者に一元化するような動きである。このようなオフライン物流からオンライン物流へのシフトは3、4年前から水面下で構想され、推進されていた。一部のメーカーからEC物流事業者にオファーが来るようになっていたのである。

すでに、事務用家具のプラスなどごく一部の荷主では、リアル販売の商品もバーチャル販売の商品と同じ物流センターで一元管理するようになっている。だが、大勢としてはこのような動きはまだ表面化していない。その最大の理由は、従来のオフライン物流のボリュームが大きいからだ。EC物流事業者のキャパシティーが追いつかない。さらに、在庫管理システム構築上の課題や、EC物流事業者からすると、オフライン物流は利益率が低いので、あまり積極的ではないという事情などもある。

とはいえ少しずつオフライン物流とオンライン物流の融合が進みつつある。この点については、「オフライン物流をオンライン物流に融合する背景には、ブルウィップ現象や輸配送のコスト削減だけではなく、オムニチャネルにおける物流システムへの移行という側面があることを認識する必要がある」(森田富士夫『ネット通販と当日配送』)と指摘しておいた。つまり、サプライヤーのオンライン物流への移行は、小売業という川下で進行しているオムニチャネル化に、川上からの物流を対応しようという動きと連動してくる。

すでに、多数のネット通販の物流をフルフィルメントで受託しているEC物流事業者では、個人宅宛の発送だけではなく、リアル店舗納品も行うようになってきた。現状ではまだボリューム的に少ないが、ブランディングに成功したネット通販会社が、リアル店舗にも商品を卸売りするようになってきたからである。

この流れは今後より大きくなってくると考えられる。すると、メーカー→問屋、メーカー→大型小売の物流センター、メーカー→地方拠点、問屋→大型小売の物流センターなどのオフライン物流を担っている事業者は、この変化に対応する方策が必要になる。また、オムニチャネル化によって、一部は小売の物流センターを経ずにEC物流事業者→小売店舗、店舗販売した商品でもEC物流事業者→個人宅(あるいは受取指定のコンビニ店舗など)といった流れになる可能性もある。すると、物流センターの管理運営から店舗配送までを一括受託している事業者にもいずれは影響が出てくる。

5. 物流の内製化でダークストアの役割の変化と多機能化が進む(在庫の一元管理と宅配便離れ)

オムニチャネルによる物流の変化の特徴の一つに、物流の内製化がある。

先述のように在庫の一元管理は、グループの全店舗と全物流拠点、さらにサプライヤーの在庫までも包括しようとしている。これにはサプライヤー側の抵抗が大きく、サプライヤーの在庫まで含む一元管理がすんなり行くとは思えない。また、百貨店などは買取仕入れよりも、消化仕入れの商品の方が多いといった問題もある。つまり店頭に並んでいる商品でも所有権はメーカーや問屋にある。

このように在庫の一元管理も簡単ではない。そこでPB商品戦略がある。メーカーにPBを委託生産させ、PBに関しては工場内にあって所有権が小売側になくても、在庫を一元管理できるようにする。したがってPBは、商品戦略(オムニチャネルを前提にした差別化など)、販売戦略(オムニチャネルに対応した価格政策など)だけではなく、物流戦略(オムニチャネルに対応した在庫管理など)という性格も帯びてくることになる。

ここからも物流の内製化が必然となる。もちろん、現場業務は事業者に委託するが、事業者は庫内作業に専念するだけとなる。

また、ラストマイルの複雑化に伴い、ダークストアの役割や機能が大きなポイントになってくる。ネットスーパーには店舗から商品を発送する店舗型と、ネットスーパー専用物流センターから発送するセンター型の2つのタイプがある。後者の専用物流センターをダークストアと呼んでいる。物流施設ではあるが内部は店舗と同じような商品陳列になっているからである。だが、一般の消費者には見えないストアといった意味で「ダーク」と言っているようだ。

オムニチャネルによって、このダークストアが当初のようにネットスーパーの商品発送という目的や機能だけではなくなってくる。先述のように、別の店舗にある商品を宅配(あるいはコンビニ店舗などの受取指定場所)してほしいという購入者に対して、購入した店舗に運んでそこから発送するのか、在庫のある店舗から発送するのか、それとも在庫のある店舗から物流センターに戻して発送するのか、その他、オムニチャネルではラストマイルが錯綜としてくる。これらを整理、統括してラストマイルをすっきりしたシステムにするためのポイントが、ダークストアの目的や機能として重要になってくるからだ。

さらに、ラストマイルの内製化も進んでいる。国交省の集計による宅配便取扱個数で、2014年度は5年ぶりに前年度割れになった。その理由として、13年度末の消費税増税前の駆け込み需要の反動と、宅配便各社の料金値上げの影響が挙げられている。だが、それだけでなく大手ネット通販会社などの宅配便離れの影響も一因と認識すべきだ。大手ネット通販に限らず、宅配便の大口顧客である大手小売業では、オムニチャネル化の中で宅配便離れも検討している。小口化やオムニチャネルによって、今後とも宅配荷物の個数は増加していく。だが、宅配個数の増加が宅配便取扱個数の増加とイコールではない。

オムニチャネルのラストマイルでは、大型物流拠点を戦略的に配置し、そのテリトリー内(配送密度が濃いエリア)は子飼いの事業者を組織して、独自の宅配システムを構築するといったことも検討されている。

宅配便はコモンキャリアが提供するレディー・メイド・サービスなので融通が利かない。メニー・ツー・メニー(MtoM)の宅配では宅配便を利用しなければならないが、ワン・ツー・メニー(OtoM)の宅配なら独自の宅配システムを構築して、コントラクトキャリアにオペレーションさせた方がサービスレベルを向上できる(現状でもオーバースペックだが)。このOtoM方式で先行し成功している事例はヨドバシカメラである。アマゾンも主要な経済圏ではOtoM方式への移行を進めている。

一般的な傾向としては、配送車両の小型化を進めて1回の配送における納品件数を減らす。車両の回転数を増やして待機時間のないオペレーションにする。すると、極論すれば購入後1時間以内に指定場所に配達といったことも可能になる。そして1個の料金単価は割高になっても、配送効率の悪い荷物だけを宅配便事業者に委託するという構想である。

これは中小の地場事業者にとって、宅配事業(宅配便事業ではない)に参入するチャンスだ。ただし、決められた仕組みの中で、宅配業務に専念するという仕事である。

一方、宅配便事業者は、大手顧客の宅配便離れも踏まえ、物流を内製化できないような中小ネット通販会社を、フルフィルメントの物流センターに取り込み、宅配便ネットワークで配送するような方向を打ち出している。

以上、オムニチャネルによって川下のラストマイルは大きく変化する。それだけではなくメーカー物流も変化してくる。このような動向を認識しておくことは重要だ