「人がいない」のではなく「応募者がいない」

M Report 2015年11月号から


日本社会の人口構造をマクロ的にみれば少子高齢化であり、人口が減少していることは事実だ。しかし、実態を分析することなく「若い人がいない」=「労働力不足」と決めつけてしまってはいないだろうか。さらに、だから業界イメージの悪い運送業には人がこないのでドライバー不足になるのもやむを得ない、という諦めに近い結論に至っていないだろうか。

だが、本当に若い人がいないのだろうか? 運輸業は賃金水準が低いので人が来ないのだろうか?

厚生労働省の「『非正規雇用』の現状と課題」を基に、独自の視点から考えてみたい。

まず、厚労省の同調査で正規雇用労働者と非正規雇用労働者の推移をみよう。

正規雇用と非正規雇用労働者の推移
2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年
正規 3,395 3,374 3,352 3,340 2,294 3,278
非正規 1,727 1,763 1,811 1,813 1,906 1,962
合計 5,124 5,138 5,163 5,154 5,201 5,240
(資料:厚生労働省の資料より作成=厚労省は総務省の「労働力調査」を出所にしている 単位:万人)

この表には載せていないが2008年はリーマンショックの影響で雇用労働者が減少した。ニュースなどで「雇止め」がクローズアップされたが、実は2008年に減少したのは正規雇用労働者(-3.9%)で、非正規雇用労働者(+3.0%)は逆に増えている。2009年になると正規雇用労働者(-1.5%)も、非正規雇用労働者(-3.8%)も減少している。2008年にリーマンショックの影響を受けたのは年度の後半からで、本格的な影響は2009年に入ってからといえる。

2010年以降は表の通り正規雇用労働者は年ねん減少を続けている。それに対して非正規雇用労働者は2010年以降は毎年増え続けている。最近は景気回復で雇用が増えてきたというが、実際に増加しているのは非正規雇用労働者であって、正規雇用労働者は減少し続けていることが分かる。たしかに正規雇用、非正規雇用を合計すれば雇用労働者の数は増加しているが、2010年以降は2012年を除いて増加しているのであり、最近になって増えてきたわけではない。

2014年の非正規雇用労働者の内訳は次ページの表の通りである。

非正規雇用労働者の中ではパート(48.1%)が一番多い。ここには載せていないが、嘱託は時系的にみると年ねん増えている。

2014年の非正規雇用労働者の内訳
パート アルバイト 派遣社員 契約社員 嘱託 その他
943 404 119 292 119 85
(資料:前同 単位:万人)

これは定年退職者が嘱託として残るケースが増えているからだろうと推測される。なお、古いデータでは「嘱託」という独立した分類にはなっておらず、「契約・嘱託」と一括りになっていた。団塊の世代が定年退職の時期を迎えてから「嘱託」という雇用形態が増えてきたので、「嘱託」と「契約社員」を分けて集計するようになったものと思われる。したがって、契約と嘱託は各会社の社内的な分類(呼称)にも関連しているので、定年退職者の再雇用は「契約社員」の中にも含まれていると考えてよいだろう。

つぎに、2014年における非正規雇用労働者の年齢構成は以下の表の通りである。

2014年の非正規雇用労働者の年齢別構成
15~24歳 25~34歳 35~44歳 45~54歳 55~64歳 65歳以上
231 303 397 376 421 234
(資料:前同 単位:万人)

本題はここからだ。なぜ、これだけの人たちが非正規雇用労働者として働いているかである。実は正社員として働くことを希望しているが、正社員として働く機会がないので、仕方なく非正規雇用労働者として働いているという人たちが18.1%もいるのである。この不本意非正規雇用労働者数は331万人にも上る。

それを年齢層別にみると以下の通りである。

不本意非正規雇用労働者の年齢別内訳
15~24歳 25~34歳 35~44歳 45~54歳 55~64歳 65歳以上
33万人 80万人 70万人 65万人 66万人 19万人
15.1% 28.4% 18.7% 18.3% 16.9% 8.8%
(資料:前同)

15~24歳で33万人、25~34歳で80万人、35~44歳で70万人。つまり15~44歳を合わせると183万人もの人が正規雇用労働を望んでいることになる。15~17歳は運転免許が取得できないので、15~24歳の人数の70%を18歳以上と仮定しても、18~44歳で173万人もいることになる。かりに44歳の人を採用しても約20年間は働いてもらえる。

しかも、一般の非正規雇用労働者(短時間勤務者を除く)で一番年収が多いのは35~39歳(60歳以上を除く)で、時給ベースでは平均1261円/時である。そして、不本意非正規雇用労働者の希望は、雇用の安定や安心なのだ。

つまり「人がいない」のではなく「応募者がいない」のが実態だ。重要なのは正規雇用を望む人たちをいかに採用に結び付けるか、という工夫と努力ではないのか。