プライオリティの判断が社長の仕事 ②

経営者は方向や目的を明確に示さなければならない


いうまでもなく外部要件が厳しさを増す中で、内部要件を再構築・強化するために経費削減に力を入れるのである。

機械的な一律のマイナス・シーリングも、対処療法としてなら一時的効果があるかも知れない。だがその結果、社員の発想や行動が消極的になるなど企業全体を萎縮させてしまうこともある。体質強化とは反対に弱体化につながることもあり得るのだ。そうなると本来の目的とは逆の結果になってしまう。したがって同じ経費削減でも軽重のメリハリが必要なのである。

全体としては経費削減目標を達成するために努力するのだが、今こそ必要だし、将来を展望すると強化しなければならないと思う重点分野には反対に予算を増やす。

たとえば、将来有望な分野に積極的に投資したり、人材を確保するために人件費を増やしたり、従業員の教育費を増加して質的向上を図ったり、営業費用を増やして営業力の強化に努めたり、古い設備を一気に更新して攻勢に出たり、その他である。

どの予算を増やすのかは各社によって異なる。しかし、現在の経済環境下で、今後は何に力を傾注するかを明確に打ち出しているという点では共通している。

このような経営には判断力が不可欠だ。そのためには、優先順位を決める判断基準が必要となる。いわばプライオリティの物指しだが、それは経営者が将来ビジョンを画き、それを実現するための企業戦略と経営計画をもっているかどうか。さらに、それが社内の共通認識になっているかどうかである。

経済が成長し、市場が拡大している時なら、経営に対する優先順位の判断が多少間違っていても問題はさほど顕在化しない。しかし、縮小経済の中では、自社の経営にとって何が重要かという優先順位の的確な判断力が求められてくる。

この判断力の優劣が、その後の企業間格差になって現れてくるだろう。つまり、「何%経費削減」という課題は、どの会社でも簡単に取り組めそうなのだが、本当は、経営再構築・強化の方向性が明確になっていなければ取り組めない課題なのである。

それなのに何のための経費削減かという認識がなく、ただ削減目標値を達成するために必死に取り組んでいる企業を見かける。判断基準がないので結局、一律のマイナス・シーリングしか方法がない。

これは経営トップに将来ビジョンや企業戦略があるか否かという問題である。企業の方向性を指し示すことが経営者としてやるべき本来の仕事なのである。だが、経営者としての本来の役割を果たしていないにも関わらず、ただ闇雲に経費削減だけを叫び、社員に目標達成を迫る経営者が少なくない。

ついでに辛辣なことも記しておくと、オーナー経営の中小企業の場合、厳しい経営環境なので何%の経費削減をしろと命じておきながら、経営者自身が参加する接待ゴルフの費用などは削っていないようなケースを見かける。しかも、趣味はと問われると「趣味はゴルフ」と多くの経営者が答える。

趣味とは、基本的には個人の可処分所得から支出してプライベートな時間におこなうものであろう。大部分は会社の経費で、しかも平日の昼間にプレーしているゴルフが趣味とは、公私混同ではないのだろうか。

あるいはゴルフは個人的な趣味でもあるが、たまたま接待など仕事上の付き合いで行くケースが多い、ということもあるだろう。そうであるならば、費用に対する効果(当日の営業成果など)の報告書を領収書に添えて提出すべきである。

これは極端なたとえだが、本当に経営環境が厳しいと認識しているのなら、経営者はそのくらいの覚悟で臨まないといけない、ということである。