実体経済後退を直視し生産性向上を図る


政府や日銀ではこの間、景気は「緩やかに回復」や「堅実な回復基調」など、全体として上向いているような判断を示してきた。だが、実際には落ち込んでいるというのが直接取材をしている多くの中小トラック運送事業者の実感である。

各指標をみても個人消費が伸び悩み、企業の設備投資も増えていない。海外での設備投資に積極的な大企業も、国内における設備投資には慎重だからである。なぜ国内での設備投資が増えないのか。理由は簡単で、国内市場の将来性が見込めないからだ。

低金利どころかマイナス金利など、どんなに金融緩和策を推進しても、市場の将来性が見込めなければ企業は設備投資をしない。逆に、市場の将来性が期待できれば金利が高くても借り入れをして投資する。それが企業経営である。

なお、低金利でも融資が増えないのは、この間、大手企業では内部留保を増やしたことも理由の一つと言われている。いずれにしても国内の設備投資は伸びていないが、それでも全く設備投資がないわけではない。

だが、国内の設備投資をみる場合、投資金額だけでなく投資内容も分析することが重要である。設備投資金額は同じでも、何にどのような設備投資をしたのかによって、経済波及効果は180度違ってくるからだ。それに伴い貨物輸送需要も大きく異なってくる。

たとえば、従来よりも生産能力を増強するための設備投資なら、様ざまな波及効果が期待できる。トラック運送事業者にとっても、最良のシナリオなら拡大した生産能力分だけ荷物量が増える可能性がある。

ところが最近の国内における設備投資では、効率化を目的にした設備投資が増えているという。たとえば生産能力は従来と同じだが、これまでよりも少ない従業員数で生産が可能になるような効率的設備への転換である。この場合には、プラスの波及効果ではなくマイナスの波及効果をもたらす。トラック運送事業者にとって最良のシナリオでも、輸送量は横ばいということになる。

効率化目的の設備投資によって、従来よりも少ない従業員数でこれまでと同じ量の製品を生産できるようになると、地域経済にとっては人員削減などマイナス影響が出る。自治体においては税収が減少し、さらに小売業や飲食店などの売上も減る。それによって消費財などを地域で配送しているトラック事業者も間接的影響を免れることはできない。

このような中で最近の荷動き状況を全国的に聞くと、良くて横ばいで、昨年の夏ぐらいから実体経済は落ち込んできているという中小運送企業の経営者が多い。「横ばい」という事業者は健闘している方である。もちろん業績を伸ばしている事業者もいるが、それは取引している荷主企業の業績が良かったり、あるいは既存の取引先では取扱量が減少していても、新規の荷主を開拓しているから全体としては業績が伸びている、というパターンである。

ところが、製造業の荷主ではさらに生産拠点の海外への移転が進むことが予想される。現在でもすでに海外に移転しているが、さらに海外移転が進み、国内の工場は閉鎖されるという流れになるであろう。つまり今後は輸送量が落ち込んでいくと覚悟して経営に当たらなければならない。

このようにみてくると国内市場は絶望的になってしまいがちだが、必ずしもそうではない。ある事業者は「町工場などの荷主も、同業の中小事業者も子息がいるのに身売りしたり廃業したりするケースが増えている」という。そのような中で勝ち残るには、社員満足度を高めて、ドライバーを確保できる会社になることである。この事業者は「ドライバーを確保できる経営が勝ち残りの条件」と考えている。

そのためには、生産性を向上して社員満足度を高めるための原資の確保が必須の条件になる。