労働条件改善パイロット事業への期待


トラック輸送における取引環境・労働時間改善協議会との関連で、全国都道府県においてパイロット事業が展開されている。荷主企業(発荷主・着荷主)と事業者(元請け・実運送)が協力して、実際に労働時間改善などに取り組むという事業である。

厚生労働省では以前から「トラック運転者労働条件改善事業」を行っており、昨年3月には「荷主企業と運送事業者の協力によるトラックドライバーの長時間労働の改善に向けた取組事例」を小冊子としてまとめた。

さらに今年度は、厚労省、国交省、全ト協が連携・分担して全国41都道府県(9月7日現在)においてパイロット事業の取り組みを進めている。荷主企業と事業者の組み合わせを選定し、協力を得て労働時間短縮など現場改善にトライするという試みである。

来年3月の年度末までには各都道府県のパイロット事業の結果をまとめる。今年度のパイロット事業で得られた成果、教訓、課題などを前提に、トラックドライバーの労働条件改善の実現に向けて来年度も引き続き取り組みを続ける予定である。

荷主と事業者による物流効率化への取り組みは昔から行われてきた。効率的な物流の仕組みの追求、端的に言えば物流コスト削減の取り組みである。一般的には荷主企業主導型で進められてきた。

これにより提案力のある事業者は包括的な仕事を取りやすくなっているが、必ずしも利益が大きいわけではない。その根本的な理由は簡単だ。以前は物流効率化を荷主自身で考えていた。そのための人材を社内に抱えているか、社内にいない場合にはコンサルタントなど外部に委託していた。いずれにしても物流効率化を考えるためのコストは、荷主が自分で負担していたのである。

だが、事業者に「専門家なのだから効率的システムを提案してくれ」とか、コンペで競わせて優れた提案をした事業者に業務委託するようになってきた。これは効率的システムを考えるためのコストを、ちゃっかり事業者に転嫁したことを意味する。ほとんどの場合、企画・提案に対する対価は支払われておらず、ノウハウのタダ取りである。

一方、事業者側は提案が採用されれば業務受託することができるが、業務受託料はそれほど高額ではない。提案力があっても利益率がさほど高くない理由はそこにある。それに対して、利益率の高い事業者は現場の作業能力が高いのである。業務受託料だけが収入なのだから、ローコストオペレーションなど現場力のある事業者でないと高利益率は実現できない。

それはともかく、物流効率化に関しては荷主と事業者が協力して取り組んできたことは事実だ。それは荷主の物流コスト削減追求が原動力になっているからである。

ところが、パイロット事業における荷主と事業者の取り組みは物流効率化への取り組みとは違う。パイロット事業が目指すのは、ドライバーをはじめ現場で働く人たちの労働条件の改善である。作業効率化による労働条件の改善もあり得るが、労働条件を改善するとコスト増になる場合もある。ムダな待機時間の短縮などは、理論的には残業代の減少などコスト削減になるはずだが、残業代など支払われていないのが実態なので、実質的には労働条件改善がそのままコスト削減にはならない。

つまり、事業者にとってはコンプライアンス、荷主にとっても取引事業者の法令順守による企業イメージの向上にしかならないのである。そのため、取り組みの推進力として市場原理が働かない。するとパイロット事業に協力する荷主も、コンプライアンスなどに理解力のある企業でないとなかなか難しい。ところが、そのような荷主企業では、すでに現場での労働環境改善などを比較的進めてきている。労働条件の改善が切実に求められるような荷主では、労働環境改善への意識などが極めて低いのが実態である。

とはいえ、荷主と事業者が共同してドライバーの労働時間短縮などに取り組むのはこれまでにはなかった新たな試みだ。労働条件改善に向けたパイロット事業が、実際に現場の労働条件改善につながることが期待される。